社説

五輪マラソンの札幌案/真の「選手ファースト」とは

 2020年東京五輪のマラソンと競歩について、国際オリンピック委員会(IOC)が今月、札幌での開催を提案した。変更案は30日からの調整委員会に諮られるが、選手の健康面からは、札幌がより好ましいのは当然。ただ、五輪の開催意義にもかかわる提案が、唐突に出てきたことへの疑問は払拭(ふっしょく)できない。
 IOC幹部は、今夏に中東ドーハで行われた世界陸上の女子マラソンで、完走者が約6割だったことなどへの危機感を強調。「札幌は選手にとってずっと安全だ」とした。
 とはいえ、マラソンや競歩に限らず、猛暑の東京での五輪開催自体、招致計画段階から疑問視されていた。決定後の猛暑対策で、マラソンの開始時間は当初の午前7時半から午前6時に前倒しされ、東京都は都道の遮熱性舗装を進めるなどしてきた。
 対策の否定は、結果として、東京の招致計画やIOCの従来の判断が誤っていたということではないのか。
 多額の費用を負担する開催都市にとって、コースに名所旧跡をちりばめたマラソンは、世界への情報発信の大きな柱。男子マラソンは大会最終日が慣例で、閉会式中に表彰式が行われたこともある。花形種目を実施できなければ、開催意義が問われる。24年のパリなど、今後の開催都市にも影響は及ぶ。
 札幌変更案も運営面で費用など課題は多い。例えば、13年のボストンマラソンではテロがあった。市街地での警備態勢は構築できるのか。
 前回、1964年の東京五輪は開会式が10月10日。「7、8月の開催自体が問題」という声もある。ただ、時期を決めたのは東京都ではない。IOCが立候補都市を募った時点で、日程設定があった。
 開催時期決定には、米テレビNBCの意向が反映しているという。IOCの収入は放映権料が全体の7割。NBCとは2032年夏季大会まで1大会平均で約1300億円の契約を結ぶ。日本は4大会合計で約1100億円だ。
 米国ではプロバスケットボールNBAやアメリカンフットボールNFLなどが秋に開幕する。視聴率確保のため、人気スポーツと重複しない夏枯れの時期を求め、IOCも応じた結果とされる。
 今大会では、競泳の決勝が午前中で、屋外の女子サッカー決勝やテニスも日中開催の予定だ。人気競技のタイムテーブルも、米国でのゴールデンタイムに合わせている。
 IOCの提案は「選手ファースト」以上に、棄権者続出で五輪の興行的価値が下がる危機感ではないか、とさえ邪推される。五輪のいびつな現状と限界を、自ら浮き彫りにした面は否定できない。
 問われているのは、マラソンや競歩の開催地変更案だが、その根本にあるのは、真の「選手ファースト」のための五輪の在り方そのものではないのか。


2019年10月25日金曜日


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