社説

五輪マラソン札幌決定/根本的課題から目を背けた

 2020年東京夏季五輪のマラソン、競歩コースが札幌開催で決着した。開幕まで9カ月を切った状況での唐突な変更で、札幌市や北海道も交えた関係者の一層の調整、努力が求められる。ただ、今回問われたのは競技会場の是非にとどまらず、五輪の意義そのものだったのではないか。
 10月中旬に表面化した「札幌移転案」は、31日までの調整委員会での実務協議で、財政負担など4項目について、国際オリンピック委員会(IOC)、大会組織委員会、東京都、政府の4者が合意。IOCのバッハ会長が小池百合子都知事に1日、予定コースを使った「セレブレーション(祝賀)マラソン」開催を提案、最大限の配慮を示した。
 札幌開催は、IOCが「決定」として発表。気温など客観的条件で札幌がより冷涼なことは明らかだ。法的な観点を含め、東京都がひっくり返せるものではなかった。
 1日の4者協議で、小池氏は「合意なき決定」としながら受け入れる方針を示した。都のメンツを保つ一方、IOCは、中東ドーハであった世界陸上での棄権者続出という「不可抗力」を原因とする姿勢を変えず、謝罪もなかった。
 札幌開催時の経費は「東京都に負担させない」と4者合意し、原則、組織委とIOCが支出する方向という。ただ、北海道や札幌市にも道路補修など一定の関連経費負担はあり、開催にかかる総額、負担割合は未定だ。
 札幌での発着点、コースなどは12月初旬のIOC理事会での承認を目指すという。国際陸連(IAAF)は、3日間での集中開催などの案を示すが、早急に全体像を固めなければ警備計画作成や、ボランティアを含む人員確保などの準備にも支障が生じる。8日に関係者の会議が始まったが、既に時間との闘いだ。
 1日の4者協議の最後、小池氏は「(夏季五輪の)7、8月の実施というのは、北半球の大半の都市にとって、これからも過酷な状況になると言わざるを得ない」とIOCを批判した。
 もっとも、東京都は立候補ファイルに「温暖で、アスリートが最高の状態でパフォーマンスを発揮できる理想的な気候」と明記していた。「過酷な状況」と知りながら、美辞麗句を掲げたのは、都自身でもある。
 米放送局などからの多額な放映権収入をもたらすとされている7、8月の夏季五輪開催。IOCは複数都市での開催など柔軟な対応を取れることを挙げ、時期の変更に否定的な見解を示した。
 五輪の花形と言えるマラソンを、IOCは今回、現場の声もほとんど聞かず、強権的に開催都市から動かした。
 五輪の価値や真のアスリートファースト、そして、多額の費用を負担する開催都市の在り方とは、果たして何か。早期決着の陰で、根本的な疑問は置き去りにされた。


2019年11月09日土曜日


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