社説

宮城県美術館の移転/立ち止まって熟考尽くそう

 仙台市青葉区川内にある宮城県美術館を、宮城野区の仙台医療センター跡地に移転し、新しい県民会館と一体化する方針案が示されて1カ月になる。
 この間、県は有識者懇話会に移転・集約計画を盛り込んだ中間案を提出し、了承された。そこには、これまで触れられなかった移転方針の理由が記されている。
 要約すると、美術館をはじめ、老朽化した県有施設の更新には膨大な費用を要し、将来、重い負担になると真っ先に指摘している。
 美術館と県民会館を集約させて新築すれば、国の有利な起債制度を活用でき、コスト削減になるという説明も付け加わっている。
 なるほど、自治体財政は厳しさを増すばかりだから、小回りの利く効率の良いタイプに切り替えるのも一理ある。
 しかし、その線で進めていいものと、そのくくりで捉えてはいけないものがあるのではないか。
 移転方針が浮上して以降、広瀬川河畔になじんだ落ち着きのあるたたずまい、優れた建築設計に思い入れを持つ県民から、驚きと現地存続を求める声が上がっている。
 「これだけ美術アートの根付いている土地から移転させる理由は、どこにあるのでしょう」。日増しに広がる見直しを求める意見に、明快な答えは示されていない。
 何よりも、ふに落ちないのは美術、芸術関係者の見解を聞かずに進めていることだ。美術館のリニューアルについて議論を重ねた検討会議は昨年3月、既存の建物を生かしながら改修するとの基本方針をまとめている。
 検討会議のメンバーが移転の説明をされたのは、県当局の方針が示された先月中旬以降という。美術館を所管する県教委の職員はいま、一人一人を訪ねて歩く説明行脚に追われるありさまだ。
 施設の運営を話し合う有識者会議の「県美術館協議会」に対しても、いまだに説明がなされていない。
 2004年施行の県文化芸術振興条例には「県は文化芸術振興に当たり、県民の意見を十分に把握し、意見を反映させる」(第3条)とある。
 文化、環境の視点から十分な議論を行った形跡は見当たらず、政策決定のプロセスに粗さが目立つ。もっと丁寧に扱うべきテーマと思われる。
 まちづくりにも大きな影響を及ぼすだろう。周囲には、一般利用のできる図書館のある東北大キャンパス、川内萩ホール、植物園をはじめ、仙台国際センター、博物館などがそろっている。
 仙台城から見下ろす追廻地区には、川内・青葉山の名勝を紹介する公園センターを造る計画で、歴史探訪の周遊コースになる潜在性を秘める。
 美術館はこの場所にあってこそ、輝き続ける。いったん立ち止まり、熟考の上で見直すことを考えていい。


2019年12月19日木曜日


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