社説

東北の記録的不漁/漁業の文化が岐路にある

 東北の水産業界にとって試練の年が明けた。主要漁港の多くは昨年、記録的な不漁となり、回復の兆しは見られない。足元が定まらない中、国の水産改革は年内に本格化する。小規模経営が多数を占める東北の水産業は持続できるのか。浜に不安が広がる。
 宮城の石巻、気仙沼、女川の各魚市場は昨年、数量、金額とも前年割れし、低落に歯止めがかからなかった。八戸港の水揚げ量は前年の61%に落ち込み、68年ぶりに7万トンを割った。凶漁に終わったサンマ、激減が続くスルメイカ、低迷するカツオ、サバ。現場には重苦しい空気が漂う。
 主力魚種が振るわない年は過去に何度かあった。従来の常識では他の魚種が補完し、市場の水揚げ量や金額を維持してきた。昨年の場合、「複数の魚種にわたる、壊滅的な不漁」(石巻魚市場)だったことが事態をより深刻化させている。
 漁港の背後に控える水産加工業者は原材料の不足と高騰に見舞われた。東北で水揚げが増えているブリやウルメイワシといった南方系の魚は魚食文化が浅く、加工技術が追い付かない。新たな設備投資をする余力もない。主力魚種の漁期の遅れも相まって、経営の不確実性が増している。
 2018年に70年ぶりに改正された漁業法は、年内に施行される。資源の管理強化と漁業の成長産業化を柱にした水産改革は、いよいよ実行段階に移る。
 新たな資源管理システムの導入は漁業者に漁獲制限を求める内容だ。将来にわたって水産資源を確保し、漁業者の所得を維持、向上させるという大義はあるものの、青息吐息の漁業者に追い打ちをかけることにもなりかねない。
 改革実行の前提として、漁業者に対し、改革による安定経営の道筋を丁寧に示すことが肝要だろう。その上で必要なのは、近年の海洋環境の変化を科学的に解明し、対策を講じていく手だてだ。
 不漁の要因として気候変動による海水温の上昇、海流の変化が挙げられている。海況をより正確に把握するには人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)を積極的に取り入れた「海の見える化」が重要になる。
 現状では現場の漁業者と科学的データに乖離(かいり)があるといわれる。漁業者がリアルタイムの情報を研究機関などに提供し、海況と資源量の精度の高い情報をつくり上げ、共有する体制が求められる。
 世界有数の好漁場といわれる三陸の海は今、大きく変容している。旬の魚が変わり、浜に揚がる魚種が変わる。地域に根差す魚食や漁業の文化は岐路にある。それは水産業全体にさらなる淘汰(とうた)を迫る要因になりかねない。
 東北の重要な基幹産業である漁業を持続させるため、国や自治体、漁業者は何ができるか。密度の濃い連携を深化させなければならない。


2020年01月14日火曜日


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