社説

聴覚障害者の備え/地域全体で教訓の共有を

 東日本大震災発生後、被災地の情報は音声が中心だった。聴覚障害者は状況が分からず危険や困難に直面した。
 社会の高齢化に伴い、耳が聞こえない人は今後、増えるだろう。聴覚障害者の被災体験と教訓を地域全体で共有し、備えに生かしたい。
 宮城県では震災で障害者手帳を所持していた聴覚障害者76人が犠牲になった。聴覚障害者全体に占める死亡率は1.2%で、全住民の死亡率0.5%の2倍を超えた。
 犠牲になった聴覚障害者は全員が沿岸部の自治体に住んでいた。防災無線や消防団の呼び掛けなど音声による避難情報が届かず、揺れが収まった後、その場にとどまった人が多かったのではないか。
 当初、避難所での物資配給の連絡も口頭や放送だった。並んでいる理由や配給の時間が分からなかったり、聞こえないことで後回しにされたりした事例もあったという。
 聴覚障害者らによると、コミュニケーションが取りにくい、情報が入りにくいのは平時からの課題で、それらが非常時に際立った形だ。
 聴覚障害者は外見から判別が難しく、障害が理解されないことも。障害によって会話の方法が手話、文字、補聴器を使った音声と異なる点も、あまり知られていない。
 被災直後の避難のきっかけや、ライフラインの復旧などの情報は、家族や近隣住民からもたらされた。周囲の人たちに耳が聞こえないこと、会話の方法を知ってもらうことが備えの第一歩だろう。
 聴覚障害への配慮は、健常者にも利点がある。避難所で重要事項を紙に書いて張り出せば、誰もが情報を共有し、確認ができる。簡単な日本語なら児童にも伝わる。
 震災後はスマートフォンの普及で、聴覚障害者を取り巻く情報入手と対話の環境が改善した。得られる情報量が増えたほか、テレビ電話を使った手話や会員制交流サイト(SNS)で、家族や職場と連絡が取りやすくなった。
 ただし、被災時は停電や通信障害といったトラブルが付き物だ。近所や職場で情報を知らせてくれる存在の大切さは従来と変わらない。
 手話通訳や要約筆記の支援者の役割と重要性も同じ。聴覚障害者が災害に遭う時、地域の支援者も被災する。サポートには支援者自身の安全確保とともに、支援者同士が助け合う体制づくりが必要だ。
 聴覚障害者の中には震災発生直後、遠慮して日頃接している地域住民に話し掛けられなかった人がいたという。一方で地域住民もいきなり、聴覚障害者と会話するとなると気後れしてしまうだろう。
 東日本大震災でも阪神大震災でも、防災対策の礎はコミュニティーとコミュニケーションにあった。まずは普段のあいさつから。聴覚障害者もそうでない人も互いに言葉を交わす勇気を持ち、見えない壁を取り払おう。


2020年02月17日月曜日


先頭に戻る