社説

本格化する事業承継/施策の遅滞は許されない

 東北の地域経済を下支えする中小零細企業をいかに存続させるか。企業の事業承継を促す国の施策が今春、本格化する。数年後ともいわれる大廃業時代を回避するためにも国、金融機関、事業者の有機的な連携が求められる。
 政府の成長戦略の柱となる事業承継の施策は4月に出そろう。全国銀行協会と日本商工会議所は中小企業経営者の代替わりの際、金融機関が新旧トップから二重に個人保証を取る慣行を原則禁止する。商工中金は無保証融資の拡大を始めた。事業承継を促進させる政府方針に対応した。
 中小企業庁は今後10年間、身内に後継ぎがいない経営者の第三者承継を支援する施策を集中的に実施する。2025年までに70歳を超える中小企業の経営者は245万人。半数の127万が後継者未定とみられ、同庁は60万の承継実現を目指す。
 帝国データバンクによると、2019年の企業の休廃業・解散の件数は2万3634件で7年ぶりに増加に転じ、倒産件数の2.8倍となった。東北は1850件で、倒産件数の約4.6倍と高水準が続いている。
 東京商工リサーチの調べでは、東北で後継者が未定の中小企業は51.0%。秋田県は66.4%、宮城は55.9%だった。後継者難は深刻化の一途をたどる。
 金融機関にとって休廃業の増加は資金需要の先細りに直結する。東北の地銀などは事業承継を経営計画の根幹に据え、専門スタッフの配置や人材紹介業への参入でコンサルティング力を強化する。事業承継は自らの生き残りを懸けた取り組みといえる。
 最大の課題は「1対9」の割合ともいわれる売り手と買い手のマッチングだろう。
 廃業を考える事業者は自らの技術力、ノウハウ、人脈といった経営資源の価値に気付かないケースが少なくない。売り上げ増や事業の多角化を目指す買い手側は情報が乏しく、手をこまぬいている。両者をつなぐ回路として金融機関や各地の事業引き継ぎセンターの一層の連携が必要だ。
 一方、成功例は着実に増えている。秋田県羽後町で創業200年を超す「弥助そばや」は秋田市の飲食チェーンが引き継いだ。盛岡市の「平船精肉店」は名物ローストチキンの味を守ることなどを条件にのれんを譲った。地域の財産が守られた意義は大きい。
 事業承継の危機は20年以上前から指摘されていた。相続税や贈与税の軽減といった事業承継税制が拡充されてきたが事態は好転しなかった。この間、地方経済は疲弊し、東京の一極集中が進んだ。もはや施策の遅滞は許されない。
 事業承継は技術、伝統といった地域の知的資産を守り、地域の雇用と生活を持続させる鍵を握る。廃業を考える事業者は自らの価値をいま一度見詰め直し、事業存続に向けた可能性を模索してほしい。


2020年02月18日火曜日


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