社説

科学技術立国の復活/若手に安心と機会与えよう

 日本の科学技術力が低下している。そう指摘されて久しい。国立大では2004年の法人化以降、研究室に渡る自由度の高い運営費交付金が減る一方で、全国から申請して獲得を争う競争的資金へのシフトを進めている。
 研究期間は3年から5年と短く、若手は任期付きで雇用される。目の前の成果を出すのにきゅうきゅうとし、お家芸とされた「こつこつ型」の基礎研究は影を潜めた。
 厚みのある層が失われるとして、政府は大学などに所属する若手の支援に乗り出す。腰を据えて打ち込めるよう経済支援し、博士課程への進学を後押しする。
 遅きに失したと言えるが、現状を改善しようという方向性は間違っていない。支援策を拡充し、研究力の劣化を食い止めてほしい。
 基礎研究の後退を示すものに論文の引用数がある。影響力のある論文の世界シェアはトップ10から転落し、11位と低迷している。得意の物理学、材料科学までが揺らぐ。
 博士課程に進む学生の割合は9.3%と、先進各国と比べて極めて低い。若手にとって、じっくりと挑戦できる魅力のある仕事ではなくなっている。
 政府の専門家会議は先月、若手が最長10年間、研究に専念できるよう1人当たり毎年700万円程度の助成費を支給することを決めた。
 総額500億円の基金を創設し、奨学金を充実させる。原則として40歳までを対象に700人を選ぶという。
 40歳未満の大学教員を1割増やす。大学に残って研究を続けられるよう身分を安定させる。企業に対しても、年間1400人程度の博士採用を25年度までに1000人積み増しすることを求める。
 国立大では、任期付きの不安定な役職で働く若手の割合が64%に上り、この10年で急増している。
 近年、自然科学分野で日本人のノーベル賞受賞が続く。しかし、1980〜90年代に取り組んだテーマで、新たな領域の開拓では各国に追い抜かれている。
 こうした危機感から、ノーベル賞受賞者が賞金を活用し、使い勝手の良い支援金を設ける動きが相次いでいる。
 おととしの医学生理学賞に輝いた本庶佑氏は「有志基金」を設立した。企業や個人から寄付を募り、1000億円規模を目指すという。
 昨年の化学賞受賞者、吉野彰氏は学会に賞金の一部を寄付する考えを明らかにしている。いずれも若手の研究職離れを危惧しての行動だ。
 「鉄の神様」と呼ばれ、東北大総長を務めた本多光太郎は「論文には怪しい中身も多いが、実験はうそをつかない。どんどんやりなさい」との言葉を残した。
 基本に立ち返り、徹底した学究と斬新なアイデアによって、現場に活気がよみがえることを望みたい。


2020年02月20日木曜日


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