社説

新型肺炎の拡大/詳細な検証を対策に生かせ

 厚生労働省の後手に回った危機管理がこうした事態を招いた側面は否定できない。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」で発生した新型コロナウイルスによる肺炎(COVID19)の集団感染で、80歳代の乗客2人が入院先の病院で死亡した。
 このうち東京都在住の女性を巡って厚労省の対応が混乱した。20日の記者会見で発熱から搬送までの期間が1週間と説明したため、対応の遅れに批判が出た。船内の医療従事者に責任を押し付けるかのような加藤勝信厚労相の発言も問題だ。
 翌日夜になって厚労省は経緯を訂正し、診察から搬送までは2日間だったとした。現場が混乱し情報が錯綜(さくそう)していたとみられるが、患者に関する情報が整理されていない事実は、まともな危機管理ができていない証明でもある。
 感染症対策の司令塔であるにもかかわらず、当事者意識が不足しているようにも見受けられた。危機管理の甘さを指摘せざるを得まい。クルーズ船での感染について原因を子細に検証し、国内での拡大という新たな危機への対策に生かすべきだ。
 全国知事会は21日、緊急提言を公表し、感染拡大を抑えるための検査態勢の大幅な強化を政府に求めた。当然の要求である。国立感染症研究所や地方衛生研究所、民間会社に加えて、指定医療機関や大学病院などでも検査ができる態勢の構築を急ぎたい。
 各地で感染事例が次々に報告される中で、一般の人々の不安は増すばかりだ。重症化する可能性などを考えれば過度に神経質になる必要はないが、感染の心配や症状があれば、居住地に近い病院で受診できる態勢整備と正しい情報の提供は不可欠である。
 下船したダイヤモンド・プリンセスの乗客の情報に関しても、帰宅後に支援の必要性が出る場合に備えて、少なくとも居住地の自治体には伝えるべきだろう。
 乗客乗員が3000人超の巨大客船の集団感染という初の事態に、多少の混乱は避けられなかったとしても、政府の対応は後手に回った感が強い。治療の優先順位を決めるトリアージは適切に行われたか、船内の感染防止策は十分であったかなど、検証すべき問題点は多い。
 米国では感染症対策を国家の安全保障の重要な柱に位置付けている。指導的な役割を果たしている疾病対策センター(CDC)は、莫大(ばくだい)な予算と約1万5000人ものスタッフを抱える。日本の国立感染症研究所とは比較にならない充実ぶりだ。
 外国の船会社が所有する外国船籍の客船の感染症対策はどうあるべきか。クルーズ船の集団感染は法制度の欠落もあらわにした。新しい感染症は間違いなく今後も繰り返し世界で発生する。わが国の感染症対策をどう充実させるべきか、再考が迫られている。


2020年02月23日日曜日


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