社説

検事長の定年延長/法治の基盤が揺らぐ事態だ

 国会で定めた法律を時の政権が恣意(しい)的に解釈を変える。国会に提出された公文書には日付がない。これでは法治国家の基盤が揺らぐ。
 政府が閣議決定した黒川弘務東京高検検事長の定年延長を巡る問題は、法の安定を損なう深刻な事態である。
 1947年に制定された検察庁法は、検事総長以外の検察官は定年を63歳と定め、延長の規定はない。黒川氏は当初、定年で今月7日に退官の予定だった。
 森雅子法相は定年を延長した法的根拠として、一般職の国家公務員の定年制度を定めた国家公務員法に基づくと説明した。同法は退職により公務の運営に著しい支障が生じる場合、定年を延長できると規定している。
 しかし、同法は「(他の)法律に別段の定めのある場合を除き」適用すると定める。この「別段の定め」に当たる検察庁法があり、検察官の定年に同法を適用するのはそもそも違法の疑いがある。
 事実、国家公務員法改正案が審議された81年当時、人事院は「検察官に国家公務員法の定年制は適用されない」と答弁している。
 衆院予算委でこの答弁との整合性をただされ、森法相は「議事録の詳細を知らない」と述べるにとどまり、人事院の担当局長は「現在まで特に議論はなく、同じ解釈が続いている」と同法の適用には否定的な見方を示した。
 野党から矛盾を指摘され、政府内で整合性を図ったのだろう。安倍晋三首相は13日の衆院本会議で、検察官の定年延長に関し「今般、国家公務員法の規定が適用されると解釈することとした」と法解釈の変更を明言した。
 しかし、長年維持された法解釈を時の内閣が勝手に変えてしまうこと自体、大きな問題をはらむ。
 法律は国会が制定する。その趣旨や適用範囲を変えるなら、政府は改正案を国会に提出し、審議を仰ぐのが原則だろう。法律に縛られるはずの政府が、都合よく法解釈を変更するのでは国民の法への信頼は崩壊してしまう。
 法解釈変更の経緯にも疑義が深まっている。安倍首相の発言を受け、人事院の担当局長は自らの答弁を「つい言い間違えた」という信じ難い理由で撤回。森法相は解釈変更の時期を何度も問われ、1月下旬と説明した。
 しかし、その根拠となる文書には日付がなく、人事院は正式な決裁を経ず、法務省は口頭で決裁を行ったという。
 重大な法解釈変更がこれでまかり通るなら、もはや法治国家の体をなしていない。安倍首相の発言を取り繕うため、答弁を修正し、つじつまを合わせたとしか見えない。
 定年延長は、首相官邸に近い黒川氏を検察トップの検事総長に据える布石とみられる。法をねじ曲げてでも自らの意向を押し通そうとする安倍政権の暴走は目に余る。


2020年02月26日水曜日


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