社説

東日本大震災9年−福島/水素エネの循環のモデルに

 東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の複合被災地である同県浪江町に7日、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)と経済産業省が整備を進めてきた「福島水素エネルギー研究フィールド」が開所する。
 再生可能エネルギーの太陽光が由来の水素を作る世界最大級の工場。再エネだけで水素を作ると製造段階も含めて二酸化炭素(CO2)を排出しない「CO2フリー」を達成できる。水素の「地産地消」が今後進めば福島の創造的復興を後押しすると期待される。
 研究フィールドはNEDOと経産省による技術実証事業として計画された。再エネの導入拡大に伴う余剰電力を水素に変換させ、広く社会で利活用するモデルの確立を目指す。両者の委託を受けた東芝エネルギーシステムズ、東北電力、岩谷産業の3社が技術開発に当たる。
 原発事故で一時全町避難を強いられた町には、9年が経過した今なお帰還困難区域が残っている。研究フィールドが立地した棚塩産業団地は原発事故後、東北電が断念した浪江・小高原発の旧予定地でもある。
 世界最大級の1万キロワット級のプラントでは、太陽光発電と系統からの電力を使って年間最大900トン規模の水素を作り、貯蔵、供給する。900トン規模は1万台分の燃料電池車(FCV)を満タンにすることが可能な量だという。既に試運転を始めており、今年7月までの実証運用と輸送の開始を見込む。
 NEDOによると実証運用では水素の製造・貯蔵と、電力系統の需給バランスの最適な組み合わせを探ることが大の課題の一つとなる。製造した水素は圧縮し、トレーラーでFCVの水素ステーションや産業用途で水素を使う工場に運ぶ。
 2020年東京五輪・パラリンピック組織委員会はこのプラントで作った水素を、聖火リレーのトーチと東京・国立競技場に設置する聖火台の燃料として使用する。福島を起点に全国を回る東京五輪の聖火リレーは3月26日、原発事故の対応拠点にもなったサッカー施設Jヴィレッジ(同県楢葉町、広野町)をスタートする。
 福島産の水素によって「復興五輪」をアピールする狙いを否定する意図はないが、利用がトーチや聖火台にとどまっては日本の技術力の発信には到底ならない。
 地元で作った水素を、まず地元が率先して使う。そうした水素の地産地消の循環を福島から全国各地に浸透させることができれば、被災地発の創造的復興を実現できるのではないか。
 水素の利用拡大を促す計画には、資源エネルギー庁の主導で16年に策定された「福島新エネ社会構想」がある。今回の研究フィールド開所を受け、構想をさらに進化させる取り組みも必要だろう。


2020年03月07日土曜日


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