社説

処理水意見聴取会/国民の関心高める議論を

 東京電力福島第1原発にたまり続ける汚染処理水をどう処分するかを巡り、政府が関係者の意見を聴取する会合を重ねている。新型コロナウイルスの感染拡大後はテレビ会議となり、地元の出席者からは「意見が伝わりにくい」と不満が漏れる。このままでは地元の住民らが望む「国民的議論」に発展するとは到底思えない。
 9年前に炉心溶融(メルトダウン)の過酷事故を起こした福島第1原発には、多核種除去設備「ALPS(アルプス)」で取り除けないトリチウムなど放射性物質を含む水が119万トンあり、構内に並べた約1000基のタンクに貯蔵されている。
 毎日増える処理水を、東電は137万トンまでため続ける計画を立てている。同社はタンクのさらなる増設は敷地の制約上難しく、構内は2022年夏ごろに満杯になるとみている。
 敷地にスペースがない状態では、廃炉作業に必要な使用済み核燃料や溶融核燃料(デブリ)の一時保管施設などを建設できなくなったり、工程に遅れが生じたりする恐れがあるという。政府の小委員会は昨年末、処理水の処分方法として「海洋放出」「大気放出」「両方実施する」の3案を提示した。
 この3案を踏まえた第1回の意見聴取会が4月6日、福島市であった。福島県内の漁業関係者や首長らがそれぞれ政府側の出席者を前に意見を述べ、「海洋放出は反対せざるを得ない」「大気放出は原発事故の時と同じように受け取られる」などと口々に語った。
 同13日に開かれた第2回は新型コロナ対策としてテレビ会議で実施され、同市と福島県富岡町の両会場から地元関係者がモニターの画面越しに東京会場の政府側出席者に語り掛けた。
 接続障害の発生によってやりとりが滞る場面もあり、地元首長の一人は「何もコロナ禍の中で開催しなくてもよかった」と苦言を呈した。今月11日、特定警戒都道府県の東京であった第3回もテレビ会議だった。
 そもそも意見聴取会は、処分方法決定のための合意形成の場ではなかったか。
 3案のいずれを採用しても地元はまたも風評被害にさらされる可能性があるのに、政府は具体的な対策を示さずに意見聴取に臨んでいる。放出するとすれば準備に2年程度かかることから、逆算すると今夏が決定のタイムリミットとみられる。一連の政府の姿勢が地元に「スケジュールありき」と映るゆえんがここにある。
 国民の最大関心が新型コロナの一点に集中する今、形式的に会合を重ねて国民的議論と果たして言えるか。収束が見通せない状況で先々を語るのは難しいが、地元の理解を得られないまま結論を急げば禍根が残る。


2020年05月17日日曜日


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