社説

香港に国家安全法/中国は一国二制度順守せよ

 社会主義体制下で資本主義を併存させる。「一国二制度」は、違いを超えて共に歩む中国の知恵だったはずだ。葬り去るような法律の制定は国際社会からの孤立を招くだけだ。
 中国の人民代表大会(全人代=国会)常務委員会が中国政府による香港の統制強化を目的とした「香港国家安全維持法」案を全会一致で可決した。
 言論や集会の自由が制限され、香港に高度な自治を保証する一国二制度が有名無実となりかねない。制定の動きには米国や日本など先進7カ国(G7)の外相が懸念を表明していた。押し切っての可決はとても容認できない。
 法案の概要によると、国家分裂や政権転覆、外国勢力と結託して国家の安全に危害を加えるといった行為が処罰対象になる。中国政府の出先機関「国家安全維持公署」が香港で治安維持を担う。
 国家安全の維持との名目で、中国本土で政府に批判的な言動が取り締まりの対象となっている。香港も同じ状況になるのではとの危機感が市民には強い。
 昨年6月、中国への容疑者引き渡しを可能にする「逃亡犯条例」改正案に対し、大規模な抗議デモが起きた。中国指導部は「外国と香港の反中勢力が結託している」と決め付け、法整備を決定したとされる。
 香港では9月上旬、立法会(議会)選挙があり、民主派が議席を増やすことが予想されている。香港安全法には、民主派の力を抑え込む意図が透けて見える。
 制定の手法も問題だ。同法は香港立法会の審議を経ていない。全人代常務委が頭越しに制定した。香港の自治をないがしろにする行為と言えよう。
 同法は1日に施行される見通しだ。香港が英国から中国に返還された日である。その日に合わせ成立を急いだことも、市民の心を逆なですることになろう。
 一国二制度は中国の最高実力者、故〓小平氏が台湾統合の方策として考案したとされる。返還後の香港政策の大原則であり、国際公約でもある。
 〓氏は香港の体制を1997年の返還後、50年間は変えないと述べた。半ばにも満たない今、体制を変えかねない法律を導入することは、国際社会から「中国と約束をしても意味がない」と見られることにつながろう。
 中国と貿易を巡って対立している米国は早速反応し、香港に認めてきた優遇措置の一部を終了させると発表した。米中両国の対立は激化している。世界の安定に悪影響を与える。
 香港安全法によって高度な自治を持つ国際金融都市、香港が変質してしまわないかどうか。日本を含めた国際社会は監視を強めなければならない。

(注)〓は登に「おおざと」


2020年07月01日水曜日


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