社説

強制不妊 賠償認めず/被害の実情顧みない判決だ

 強制不妊手術を強いられた被害者の実情を顧みない判決と言わざるを得ない。
 旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたとして、東京都の男性(77)が国に3000万円の損害賠償を求めた訴訟の判決で、東京地裁は「憲法で保護された、子を持つかどうか決める自由を侵害した」と指摘しながらも請求を退けた。
 壁となったのは、不法行為から20年で損害賠償請求権が消えるという民法の「除斥期間」だ。
 男性は仙台市出身で、手術を受けたのは1957年、14歳ごろだった。東京地裁は除斥期間の起算点を手術時とし、仮に後ろにずらす余地があったとしても「どんなに遅くとも、旧法改正で優生条項が削除された96年まで」と判断した。
 男性が提訴したのは2018年。2年遅かったことになる。
 しかし、被害者を取り巻く環境を考えれば、弁護団も指摘するように、この判断は酷と言うべきだろう。
 手術は国策により本人をだましたり、気付かれないようにしたりして行われた。加えて旧法は「不良な子孫の出生防止」を掲げていた。偏見を恐れ、裁判を起こすことができなかったであろうことは想像に難くない。
 男性も子どもが持てなくなる手術だったことを後から知った。妻が亡くなる2013年の直前まで打ち明けられなかったという。
 判決は旧法に関する社会情勢を考慮するばかりで、男性固有の事情に向き合う姿勢が見られない。
 強制不妊を強制された宮城県の女性2人の損害賠償を認めなかった昨年5月の仙台地裁判決は、除斥期間の起算点を優生手術の時点としていた。
 東京地裁が起算点を遅らせる可能性を検討したことは、今後を考えれば一筋の光明となる。旧法を巡り全国7地裁で係争中の一連の訴訟にも影響を与えよう。
 今回の判決は旧法自体の違憲性について踏み込まなかった。昨年5月の仙台地裁判決は同様に請求を棄却しながら、旧法は違憲と断じていた。この点は明らかに後退しており、しっかり言及するべきだったろう。
 不妊手術強制の問題では昨年4月、被害者に一時金320万円を一律支給する救済法が議員立法で成立し施行された。しかし、認定を受けた被害者は今年3月末で529人にすぎない。厚生労働省が当初見込んだ3400人を大きく下回っている。被害者が名乗り出にくい社会は変わっていない。
 国会は旧法の立法経緯の調査や被害者団体の聞き取りを6月に始めた。資料の散逸や時間の経過という障害はあるが、被害状況や国の責任を明らかにし幅広い救済につなげてほしい。


2020年07月03日金曜日


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