社説

ストーカー治療/早期の受診で被害防止を

 年間2万件を超える相談が寄せられるストーカー被害について、加害者へのカウンセリングなど、医学的なアプローチの有効性が指摘されている。
 各地の警察も加害者に医療機関での治療を促すようになったが、強制力はなく、実際に受診につながる例はまだ少ないのが実情だ。加害行為がエスカレートする前に、確実に医療に結び付けていく取り組みを求めたい。
 ストーカー規制法は今月で施行から20年。度重なる法改正で厳罰化と規制対象となる行為の拡大を進めてきたが、次々に新たな手口が生まれ、悲惨な事件も後を絶たない。
 規制法は「恋愛感情や好意の感情、それらが満たされなかったことへの怨恨(えんこん)の感情を充足させる目的」での付きまといや待ち伏せ、面会の要求などをストーカー行為と規定。警察は加害者に警告や禁止命令を出し、悪質な場合は摘発して被害者を守る。
 警察庁によると、規制法施行後、被害相談は年々増加している。2000年は2280件だったが、13年に2万件を超え、昨年は2万912件。警告は昨年2052件、禁止命令は1375件、摘発も2355件に上っている。
 再発防止のため、各地の警察は16年4月から、ストーカー行為を繰り返す恐れがある加害者に受診を働き掛けている。昨年は全国で過去最多の824人が対象となったものの、実際に受診したのは124人で、7割以上に当たる635人は受診を拒否した。
 20年以上にわたり被害者や加害者、その家族の相談支援活動を続けるNPO法人「ヒューマニティ」(東京)の小早川明子理事長によると、加害者の危険度は3段階でエスカレートしていくケースが多い。「殺すぞ」などと言って恨みの気持ちを行為で示そうとするのが最も危険な第3段階で、こうなると更生はかなり難しい。
 医療との接点は、つらい気持ちを訴えて執拗(しつよう)に復縁を懇願する第1段階か、「約束を守れ」「死んでやる」などと一方的に被害を訴えて攻撃に転じる第2段階のうちに作っておく必要がある。加害者は内面に孤独や不安を抱えていることが多く、カウンセリングなどで、行為を客観的に見られるようになると衝動は収まるという。
 近年は加害者がメールや会員制交流サイト(SNS)を使うケースが増えており、小早川理事長は「対面よりも距離を縮めやすく、加害者が第3段階までエスカレートしていく速度が増している印象がある」とも指摘する。取り返しのつかない被害の発生を防ぐため、早期の受診がいっそう重要になろう。
 加害者が「法に触れても構わない」と思うほど強い衝動に駆られていれば、厳罰も抑止力にはならない。取り締まりと並んで、加害者への医療措置の充実を急ぎたい。


2020年12月01日火曜日


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