考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

広瀬川が生んだ立地、文化施設にふさわしい

東北大名誉教授 蟹沢聡史(83歳・仙台市太白区)

 いま議論になっている宮城県美術館(仙台市青葉区)の移転新築問題に関して、意見を述べたい。

 宮城県美術館は1981年、広瀬川に臨む川内に開館した。まだ38年しかたっていないが、老朽化に伴うリニューアルの議論が続いていた。2011年の東日本大震災でも軽微な被害はあったものの、わりと早く再開館できた。建て替えなければならないほど寿命が短い建築物だろうか。

 18年に公表された県教育委員会の「美術館リニューアル基本方針」には、現在の建物を生かすと明記されている。ところが、昨年11月に突然、県民会館と一緒に宮城野区に移転し新築する方針が県から示された。

 本来、美術館、博物館、音楽堂などの文化施設は周辺の自然と調和し、自然に溶け込んで存在すべきものである。宮城県美術館はどうか。立地している場所を見てみよう。

 奥羽山脈に端を発した広瀬川は、河岸段丘を形成しながら仙台の市街地に至って蛇行を繰り返してから沖積平野を潤して太平洋に注ぐ。仙台藩祖伊達政宗が築城した仙台城の背後には、広瀬川の蛇行によって竜の口峡谷が形成され、自然の要害となった。

 政宗の築城以来、広瀬川の北には河岸段丘の上に市街が発展してきた。川の南側には本丸、二の丸が築かれ、明治以降は旧陸軍第二師団、駐留米軍の用地として利用された。そして今は宮城県美術館をはじめとして、東北大川内キャンパス、東北大川内萩ホール、仙台市博物館、仙台国際センターなどの文化・文教施設が立ち並んでいる。広瀬川の河畔は文化施設にとって、とてもいい立地条件なのである。

 宮城県美術館にはクレーやカンジンスキー、さらに佐藤忠良氏の作品が集められており、時に世界各地の芸術作品を見ることができる。鑑賞後の余韻に浸るのに格好な、広瀬川の流れの見える庭がある。外に出れば、周辺に散歩道もある。このような自然と一体化した宮城県美術館の立地条件は県の誇るべき財産である。

 同時に、仙台の市街地を流れる広瀬川と竜の口峡谷、仙台城をこの地に築城した政宗の見識に思いをはせることもできる。また、現美術館は新第三紀の仙台層群ならびに広瀬川による河岸段丘の上に建てられ、地盤もしっかりしている。まさに美術館のような恒久建築物に好適な場所と言える。

 青葉区片平にある旧東北帝大の歴史的建造物は、大学の移転計画に伴って消滅するのではないかと危惧した市民団体の力で存続が決まった。今回も、市民団体が現地存続を願う要望書を提出したという。日本の誇る建築家前川国男氏設計によるこの優雅な建物を存続させる前提で、移転新築の方針を見直すべきであろう。

 パリ、セーヌ川のほとりにあるオルセー美術館は鉄道駅舎を利用したものだが、ゴッホやルノワール、モネなどの名画をゆっくり味わうことができる。県もオルセーを見習うべきである。

持論時論(2020年1月28日)

コラム一覧

移転予定地の災害リスク、適切に評価を
元外務省参与 迫久展
「マアヤン」に込められた原爆の記憶と祈り
東北大大学院医学系研究科教授 虫明元
創作を支える教育機能 維持できるか
東北福祉大鉄道交流ステーション学芸員 鈴木佳子
県環境も野外作品の一部、移動は破壊を意味する
環境造形作家 佐藤達
県民会館とは異なる性質、期待できぬ相乗効果
元劇場プロデューサー 竹村公人
美しい施設を活用し存続させよう
東北大白菊会事務局長 大村昌枝
美術館は都市の顔 時間をかけて幅広い議論を
前東北学院大学長 松本宣郎
歴史と先達の思いが創る 唯一無二の景観
無職 東北大名誉教授 蟹沢聡史
財源論による正当化が民主主義を破壊
無職 医師・東北大大学院生 矢坂健
資源生かし、周辺一帯を「猫ワールド」に
無職 三島隆司
機能性高い美術館、現地改修で経費削減を
前宮城県美術館長 有川幾夫
「建てるとは住むこと」を学べるか
東北大教授 森一郎
観光資源として作品の充実とサービス向上を
東北大名誉教授 宮崎正俊
躯体は健全、当たり前の手入れで100年もつ
建築設計事務所顧問 大宇根弘司
環境と共にある作品 移設は破壊行為
法律事務所勤務 那須香緒里
鑑賞にふさわしい環境を優先すべし
添削指導員 小林広子
建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を
医師 伊藤健太
広瀬川が生んだ立地、文化施設にふさわしい
東北大名誉教授 蟹沢聡史
移転候補地に大型ギャラリー新設を
宮城教育大名誉教授 渡辺雄彦
価値ある建物と環境を引き継いで
主婦 佐野のぶ
有形無形の芸術的資産が育まれた
美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文
県民の議論を県政に反映させよう
元宮城県職員 二階堂通正
公共施設の耐用年数をどう考えるのか
医師 中井祐之
長年かけて育てた環境を守って
会社員 木村益枝