考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

価値ある建物と環境を引き継いで

主婦 佐野のぶ(77歳・仙台市青葉区)

 ケヤキが生い茂る仙台市の定禅寺通は、中央に緑道を備えた道幅46メートルの堂々とした通りである。戦争で焼け野原になった仙台に造られたこの道路にケヤキが植樹されたのは1958年。広い道路にひょろひょろとしたケヤキが植えられている当時の写真から、60年後の今の緑したたる美しい通りを想像することは難しい。街の中に小さな森を思わせる憩いの場があることの豊かさを思う。100年先の仙台を見据えた先人の想像力と決断に心を打たれる。

 宮城県美術館(仙台市青葉区)もまた、深い洞察により絶好の地に造られた施設である。地下鉄東西線の国際センター駅を出て、左手に東北大のメタセコイアの並木を仰ぎ見ながら歩くこと7、8分。シンプルにして重厚な建物が存在感を見せる。エントランスに足を運ぶと、ゆったりとした空間にまず心満たされる。建物を囲む庭に出れば幾つもの彫刻に出会い、さらに水辺へといざなわれる。広い敷地に緑があふれて心地よい。

 美術館は、ただ絵を見るためだけの場所ではない。心が解き放たれ、思索を巡らせ、新しい自分に変わるような喜びも実感できる場所なのである。この環境に美術館があることに感謝したい。

 今、突然出て来た宮城県美術館の移転・新築が問題になっている。私は、ここにあってこそと思える美術館に満足しているので、大変驚いた。開館から40年近く経れば、老朽化し不便な面が出てきて、リニューアルの必要性が指摘されるのは当然である。

 2018年3月に県教委が公表した「宮城県美術館リニューアル基本方針」によれば、19年度には基本設計・実施設計が始まり、24年度にリニューアルオープンというスケジュールである。施設改修の基本方針として、豊かな自然環境の保全、既存建物の尊重などが示されていて、ほっとする。

 一方、19年5月20日、「県有施設再編等の在り方検討懇話会」という会合が始まった。事務局は県震災復興・企画部である。

 4回目(19年11月18日)の議事録に、「県民会館を移転する仙台医療センター跡地は相当広いので、美術館・みやぎNPOプラザを集約する」という事務局の説明がある。それでも残る広いスペースを民間施設に貸し出したり、イベント広場のような使い方も考えられるという案も示されている。だがこうした使い方は、美術館という施設の持つ特性にはそぐわないのではないか。

 1年半ばかり前に公表された美術館リニューアル方針はどこへ行ってしまったのか。知事は「20年先に建て替えるか、今やるかだ」と記者会見で述べている(12月17日河北新報朝刊みやぎ面)が、建て替えと言い切るのはなぜだろう。丁寧にメンテナンスして使い、価値ある建物と豊かな環境を後世に残すことをぜひ考えてほしい。

 今から100年後、私たちの街はどのように変わっていくのだろう。豊かな緑に包まれた美術館が「先人の良き遺産」として愛されることを願ってやまない。

持論時論(2020年1月23日)

コラム一覧

移転予定地の災害リスク、適切に評価を
元外務省参与 迫久展
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東北大大学院医学系研究科教授 虫明元
創作を支える教育機能 維持できるか
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歴史と先達の思いが創る 唯一無二の景観
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財源論による正当化が民主主義を破壊
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資源生かし、周辺一帯を「猫ワールド」に
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前宮城県美術館長 有川幾夫
「建てるとは住むこと」を学べるか
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観光資源として作品の充実とサービス向上を
東北大名誉教授 宮崎正俊
躯体は健全、当たり前の手入れで100年もつ
建築設計事務所顧問 大宇根弘司
環境と共にある作品 移設は破壊行為
法律事務所勤務 那須香緒里
鑑賞にふさわしい環境を優先すべし
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建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を
医師 伊藤健太
広瀬川が生んだ立地、文化施設にふさわしい
東北大名誉教授 蟹沢聡史
移転候補地に大型ギャラリー新設を
宮城教育大名誉教授 渡辺雄彦
価値ある建物と環境を引き継いで
主婦 佐野のぶ
有形無形の芸術的資産が育まれた
美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文
県民の議論を県政に反映させよう
元宮城県職員 二階堂通正
公共施設の耐用年数をどう考えるのか
医師 中井祐之
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会社員 木村益枝