考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

有形無形の芸術的資産が育まれた

美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文(78歳・富谷市)

 仙台市青葉区の東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)と宮城県美術館を、同市宮城野区の仙台医療センター跡地に移転・集約する方針案を県が発表したことは、県内の美術・芸術関係者にとどまらず、一般県民の間に大きな波紋を広げている。県は方針案を取り下げ、美術館の将来について県民とゼロベースで話し合う場を持つべきだ。

 方針案発表後、各方面から現地改修支持や移転反対の声が上がると、県は「老朽化した県有施設の更新には膨大な費用を要する」とし、方針案は「あくまでたたき台」などと説明してきた。たたき台というのはそもそも、当事者同士が協議の必要性を感じ、きっかけとしてどちらかが提示するというのが常識だ。

 ところが今回は、国の有利な起債制度の活用を急ぐ県が、受益者である美術関係者や県民に何の連絡もなく、一方的に発表した印象が強く、あまりに乱暴だ。現在、県が行っている関係団体への「説明」でも「仮に方針案の場所に建てた場合」と前置きした上で話をしており、「結論ありき」の疑念を拭いきれない。現地改修を前提に県の検討会議が2018年策定した「宮城県美術館リニューアル基本方針」を全く無視した形で、不条理極まりない。

 現地での改修から、他の場所への移転・集約という方針の大転換であれば、これまでの議論をリセットする重大事である。本来ならば、基本方針策定メンバーに対して、事前に十分な説明があってしかるべきだ。移転・集約については現地改修も含め改めて検討の場を設け、県民に真剣な討議を要請するのが筋だと考える。

今回、移転反対の声を上げている中には、県美術館の創作室で小さい頃から絵の具や粘土にまみれながら育ち、現在活躍しているアーティストも数多い。美術館が宮城の芸術文化の成熟に貢献してきた明確な証しだ。

 美術館は醸造所に似ている。内部に定着したこうじ菌が、しょうゆやみその熟成に大きな役割を果たすように、創作にも長年の間に育まれてきたその場の空気が重要なのだ。老朽化したからと簡単に他に移ってしまえば、これまで培ってきた有形無形の芸術的資産を喪失してしまいかねない。

 現美術館建設以前の1971年、宮城県芸術協会は2万7402人の署名と建設促進を求める陳情書を当時の山本壮一郎県知事に提出した。慈善バザーの収益金を建設資金として寄付もしている。73年に県が設置した「県立美術館建設準備委員会」には、芸協から7人が参加、建設地選定に主導的な役割を果たしてきた経緯がある。

 今なすべきことは、県美術館が開館以来培ってきた成果や現状を精査・評価し、今後の活動をより充実したものにするため、行政、美術関係者、県民が一堂に会して「美術館とは何か」という根源的な議論から始めることだ。財政優先で拙速に計画を進め、未来に禍根を残すようなことだけは断じてあってはならない。

持論時論(2020年1月13日)

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