考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

長年かけて育てた環境を守って

会社員 木村益枝(41歳・米ワシントンDC)

 仙台市青葉区川内にある宮城県美術館を宮城野区の仙台医療センター跡地へ移転させるという県の方針案が有識者懇話会で了承されたという記事をネットで読み、驚いた。

 私は川内で生まれ育ち、学生時代も仙台で過ごした。県美術館、国際交流センター、東北大川内記念講堂(現萩ホール)、広瀬川などがあるあの周辺で遊び、学んだ。素晴らしい環境で育ったと今でも誇りに思う。それだけに、なぜ移転させようとするのか理解できない。

 県美術館が立地する一帯は東北大川内キャンパスもあり、学都・仙台の中心と言っていい。静かに歴史や美術を学び、深めるには最高の環境だ。地下鉄も整備されており、県美術館と併せて仙台市博物館、瑞鳳殿、青葉山までが一体の素晴らしい観光資源でもある。

 私は夫の仕事の関係で海外を転々としている。帰国した際、海外の友人たちを県美術館、市博物館、青葉山へ散策に連れて行く。誰もがその環境に驚く。街中から少し離れただけで、美しい自然がある。その静かな美しさの中で歴史(博物館)と芸術(美術館)に触れ、思いにふけることができる。最高のロケーションだと皆、口をそろえる。

 地下鉄に乗り県美術館へ足を運ぶと、広瀬川、そして青葉山の美しい自然が出迎えてくれる。そこから既に美術館での鑑賞が始まっていると言っていい。この辺りは人の手で造られたものだが、何十年もかけ完全に自然となじんでいる。その年月を思うと、宮城県、仙台市がいかにこの場所を大切に育ててきたかが分かる。美術館にはあのロケーションが最も重要なのだ。安易に移転させるべきではない。

 立地条件だけではない。県美術館は世界的な建築家の故前川国男氏が設計している。後世に残すべき建築物の一つだ。あのたたずまいは時を超えて普遍的に美しく、古くなったとしてもその良さに変わりはない。1981年に造られた庭園も、周りになじみ、素晴らしい木々が育っている。

 いま住んでいるワシントンDCのスミソニアン博物館群も皆ほぼ一カ所に集められている。シカゴも同様だ。どこも古い建物だが、新館を造ったり常に改修したりしている。歴史を重ねた建物を大切に使う文化には感銘を受ける。

 日本にも多くの素晴らしい建築があるにもかかわらず、昨今はすぐに壊して新しくしてしまう風潮が強い。とても悲しく思う。仙台市天文台が移転になった際は、都心部で光が多くなり、観測環境が悪化したためと聞き理解したが、県美術館は全く違う。

 懇話会の皆さんはあの近辺を歩いたことがあるのだろうか。気品のある知的な雰囲気を感じたことはないのだろうか。仙台生まれで仙台を愛する身として、それが理解されていないことが悲しい。

 今の県美術館のロケーションと建物の素晴らしさ、その温存の重要性を分かっていただきたい。長年をかけて育てたあの素晴らしい環境をどうか壊さないでいただきたいと切に、切に願う。

持論時論(2019年12月20日)

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