考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を

医師 伊藤健太(52歳・仙台市青葉区)

 村井嘉浩宮城県知事は就任以来十数年、大企業誘致や東日本大震災対応などに力を発揮してきた。高く評価していいと思う。しかし昨年11月、宮城県美術館と県民会館(仙台市青葉区)を移転・集約する方針が突然県から公表された。県が2018年に策定した「宮城県美術館リニューアル基本方針」では現地で改修・増築を行うことになっていたが、それを突然覆したのである。この件に関する村井知事の姿勢には違和感を抱く。

 この3カ月間、河北新報の紙面には移転案に反対・疑問の投稿や記事が連日のように掲載されている。美術や建築関係の専門家団体や市民団体からは、それぞれの立場で移転に反対する建設的な意見が宮城県に提出されている。それらに対して、村井知事は取ってつけたように「地下にトンネルが通っているから現地建て替えは困難」などと反論。移転新築を前提として「今やるか20年先にやるかの議論だ」と論点をすり替えたこともあった。また1月27日の定例記者会見では、各団体からの建設的な意見を一蹴するように「非常に感情的」と表現している。

 私は建築や美術が好きで、宮城県美術館協力会会員として月2回くらいは美術館を訪れている。特にエントランスホールの空間が大好きだ。老朽化を問題とするなら、前川国男さん設計の文化施設を持つ全国九つの自治体で構成する「近代建築ツーリズムネットワーク」に助言を求めてはどうだろう。弘前市や福岡市では、宮城県美術館よりも古い建物を改修してリニューアルオープンした。

 仙台では毎年3月に「せんだいデザインリーグ卒業設計日本一決定戦」が開催され、建築を専攻する学生が全国から集まる。この日本最大の卒業設計展が開かれる建築学生の聖地とも言える仙台で、歴史ある前川建築が見捨てられようとしている現状を非常に残念に、恥ずかしく思う。

 一方で、移転反対を唱える方々も注意が必要だ。会員制交流サイト(SNS)が発達した現在、ネット上では同じ意見を持つ人だけがつながる傾向がある。そのため、自分と同じ意見が社会の多くを占めると錯覚しかねない。新聞投稿のほとんどは移転反対だが、県民の多くが移転に反対しているとは限らない。多くはあまり関心を持っていないかもしれない。

 また、古い建物の維持には費用がかかる。東京中央郵便局や大丸心斎橋店(大阪市)のように名建築の一部が残された例もあれば、壊された建物も多い。宮城県美術館の場合も、収益性の低さと公共施設集約に対する補助金(国の起債制度)が移転案の本当の理由かもしれないので、経済的課題も含めオープンな議論が必要だろう。

 個人的には、前川さんが設計した現在の宮城県美術館が長く活用されることを強く望むが、移転を推進する方の意見も冷静に聞いてみたい。村井知事には財政問題も含めて誠実に説明し、また、賛成意見にも反対意見にも真摯(しんし)に耳を傾けて冷静に判断していただきたいと思う。有権者は見ている。

持論時論(2020年2月14日)

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