考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

環境と共にある作品 移設は破壊行為

法律事務所勤務 那須香緒里(28歳・仙台市青葉区)

 美術作品には特定の場所との深い関係の下に成立し、設置場所を動かせないものがある。宮城県美術館の移転・新築問題について、2月13日の「声の交差点」で丸山裕子さんが環境造形作品移設の不可能性について述べられていたが、ここでは、移設が破壊行為につながる所蔵作品と諸問題についてより具体的に提起したい。

 まず、美術館北庭に設置されている新宮晋作「時の旅人」である。この作品は、動く立体造形の第一人者である同氏が、広瀬川河畔に位置する美術館のため、その川風を受けて回転する立体として、美術館の壁面の色や周囲の木々、対岸からの眺めなどを考慮して開館の年に制作した。

 二つ目は、美術館前庭と一体となったダニ・カラバン作「マアヤン」である。永久設置のこの環境造形作品は、美術館のピロティ正面の柱から前庭のシンボルツリーであるケヤキまで7本の柱が立ち並び、その間を蛇行するように流れる水路によって、私たちを美術館入り口へといざなう。

 7本の柱は既存の柱に合わせてあり、その間隔は美術館の建物の基準寸法4メートルになっているのだという。つまり、この建築が持つ固有の空間的秩序と連続して「マアヤン」は同一の空間構造を持っている。

 彼の代表作には生命の象徴としてオリーブの木が使われているが、この作品にはケヤキの木が選ばれている。その理由は言うまでもない。また、作品名の「マアヤン」は、ヘブライ語で「生命の泉」を意味するが、直接的な意味以上にその象徴性は、「マアヤン」に連なる美術館の空間での営みを内包しているだろう。美術館側から湧き出した水は、南端のケヤキへと絶えず流れ続けてきた。

 カラバンは自分の作品について「他の場所に移せば死んでしまう、置かれた場所でこそ息づくのだ」とも語っている。

 平成の初め、某大企業の当時の名誉会長が、所有するゴッホの絵画を「自分が死んだら棺おけに入れて一緒に焼いてほしい」と発言し、世界中から非難されたことがあった。発言者は作品に対する単なる愛情表現のつもりだったのだろう。しかし、この出来事をきっかけに、文化財や美術作品は所有者の恣意(しい)に任せられるものではなく、所有には作品の維持や保存管理、文化の営みに資する公開などの義務が付加されること、つまり作品の存在や価値は所有権を超える公共的なものであることが、法学的、哲学的に定説となった。

 今回の県美術館移転・新築問題に置き換えれば、移転による作品の移設は作品の破壊行為に他ならない。この行為が無知や文化的対立に基づくものでなければ、自然災害と同等に避けることができない事情がなければならず、同時に、その合理的説明が示されなければならない。これが美術作品の保存機関である美術館と作品の所有者である宮城県の責務だということは明らかである。合理的説明なしの移転・新築による作品破壊は、国際的な非難の対象になるだろう。

持論時論(2020年3月6日)

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