考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

躯体は健全、当たり前の手入れで100年もつ

建築設計事務所顧問 大宇根弘司(78歳・東京都町田市)

 宮城県美術館(仙台市青葉区)の移転・新築が取り沙汰されています。私は前川国男先生の下でチーフとして設計と監理に携わり、その縁で佐藤忠良記念館の設計と監理も大宇根建築設計事務所が手掛けました。一昨年にはリニューアルのための調査も実施しました。

 村井嘉浩知事は県美術館の移転理由について「老朽化し増築する余地もない」「仮に今移転しなくても20年後には必要だ」などと説明しています。県教委が2018年3月に公表したリニューアル基本方針には、確かに老朽化の状況が載っていますが、それらは全て当然起こる経年劣化であって、建て替えが必要だと言っているわけではありません。

 例えば、屋上はアスファルト防水を施しています。美術館ですから万が一、雨漏りが発生して展示資料を()(そん) するようなことがあってはいけないので、やり直しましょうと言っているのです。ごく一部のコンクリートの(はっ)(すい)塗装、外部手すりの塗装、凍害を受けたタイルの手直しなどもそうです。設備機器は寿命が10~20年ですから、当然全面的に見直す必要がありますが、それ以外は手直し程度にすぎないのです。

 そもそも、前川先生の事務所では現代建築が汚れやすく、傷みやすいことに重大な関心を払ってきました。宮城県美術館はそうした努力の成果の最終形の一つで、コンクリート()(たい)は健全です。当たり前の手入れをすれば、あと20年はおろか、50年、あるいは100年も大丈夫だと私は確信しています。「3・11」の大地震の被害も軽微だったこともその根拠の一つです。

 この美術館は、他館に比べてかなりの省エネルギーとなっている点も見逃せません。温度の安定している地下に設けた収蔵庫は、防湿の工夫もうまく機能し、空調を止めてもしばらくは温度も湿度も変化せず、安定していることが報告されています。

 また、この美術館の特徴の一つは外観のタイルです。学芸員の方たちから、前川事務所が多用する濃茶ではなく、宮城県美術館を特徴付けるものという提案があり、工夫を重ねてつくりだした、まさに独特のタイルです。

 増築の可能性に配慮した点も後年、忠良記念館の成功につながりました。忠良記念館の敷地は南北に細長く、本館との間の隙間空間をどうするか、苦心した結果がアリスの庭です。

 この庭が皆さんに愛され、今回の移転反対運動の力の一つになっていると知り、とてもうれしく思っています。それにしても忠良記念館は、佐藤忠良さんの全資料の寄贈を受ける前提条件として建てられたと聞いています。もし美術館を移転させれば、真義にもとる行為と県当局は批判されることにはならないでしょうか。

 こうして宮城県美術館、忠良記念館はできました。工事に携わった地元建設会社の主任がその丁寧なつくり方に感動し、工事監理記録を一冊の本にまとめて出版したことも付記しておきます。

持論時論(2020年3月9日)

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