考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

観光資源として作品の充実とサービス向上を

東北大名誉教授 宮崎正俊(82歳・仙台市青葉区)

 唐突に提示された宮城県美術館の移転・新築にさまざまな意見が飛び交っている。ほとんどが反対の立場である。主な理由は、現在の建物は著名な建築家の設計によるものなので残したい、現在の立地環境は美術館に適している、というものである。私も移転に反対であり、現在の建物をリニューアルして、新しい発想の美術館に衣替えすることを望む。

 建物や環境が優れていても、コレクションが貧弱であれば美術館の魅力は薄れる。県美術館にはカンディンスキーやクレーの作品が少しあるが、目玉がない。青森県立美術館にはシャガールのバレエ「アレコ」の巨大な舞台背景画が3点展示されている。秋田県立美術館には藤田嗣治の「秋田の行事」という巨大壁画がある。これらは見る人を圧倒する。

 海外の例を見れば分かるが、美術館は観光資源としての役割も果たす。例えば仏パリのルーブル美術館やオルセー美術館、スペイン・マドリードのプラド美術館、米ニューヨークのメトロポリタン美術館など枚挙すれば切りがない。

 宮城県は観光振興に取り組んでいる。その資源として県美術館を見直すべきである。そのためにはまずコレクションを充実させなければならない。以前開催された、フェルメール3点の特別展には大勢の入場者があった。魅力的な絵画に人は集まるのだ。同様の絵画を収集するのは至難であり、予算的にも難しいことは理解しているが、芸術には金銭で測れない価値があるのも事実である。

 美術館を観光資源に位置付ける場合、そのサービスを向上させる必要がある。海外の美術館では週のうち何日かは夜の9時、10時まで開館している。夜の時間を有効に使いたい観光客への配慮だ。県美術館も夕方5時までといわず、延長の検討が必要だろう。

 県美術館が観光資源なら、仙台市博物館もそのカテゴリーに入る。両館は距離が近いのでセットにすれば複合的な観光資源になるだろう。しかし、博物館も開館は午後4時45分までである。観光客へのサービスという視点が欠けている。併せて改善すべきである。

 美術館には美術教育の環境を提供するという役割もある。「美術に関する感性を養うには本物を見ることだ」とある有名な美術館の館長が言っていた。美術館はその本物に出合う場である。海外のある美術館を訪れた時、スーラの長大な作品が展示してある部屋があった。そこにどやどやと20人くらいの幼稚園児が入ってきて、絵の前の床に行儀良く座ると、引率の教師が説明を始めた。

 海外ではこんな幼児に本物を見せる教育をしているのかと感心した。ある美術館では展示している絵の前で模写をしている人に出会った。特別な許可を得ていると思われるが、本物を模写できるサービスは教育としても素晴らしい。

 県美術館は移転せずに現在の恵まれた場所で、コレクションの充実とサービスの向上を図り、魅力的な観光資源として宮城の観光に貢献できるようにすべきである。

持論時論(2020年3月19日)

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