考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

機能性高い美術館、現地改修で経費削減を

前宮城県美術館長 有川幾夫(68歳・仙台市青葉区)

 日本を代表する彫刻家佐藤忠良氏。宮城県大和町出身で県美術館と付属の記念館には、同氏から寄贈のほぼ全作品を集めている。かつて講演に訪れた児童文学者で編集者でもある松居直氏は、建物や環境の素晴らしさを絶賛し、絵本作家に呼び掛けると、「ぐりとぐら」シリーズなどで知られる、やまわきゆりこさんら著名作家から数多くの原画が無償で寄贈された。経済人や文化人のコレクションが多数収蔵されるなど、寄贈作品が多いのが、この美術館の特徴だ。公共性と永続性への信頼、そして美術館のたたずまいへの共感があってのことと実感している。

 一昨年、「現地改修を前提とした県美術館のリニューアル基本方針」の検討に当たっては、私自身も委員の一人になって、これらのコレクションを生かし、人々を引き付ける美術館を実現することを大きなテーマとして取り組んだ。設計した前川国男氏による美術館の建物そのものが、貴重な資源として高く評価された。

 それが昨年秋、仙台市青葉区にある県美術館を宮城野区の仙台医療センター跡地へ、東京エレクトロンホール宮城(県民会館)と共に移転、集約する案が明らかになった。新聞報道によれば、村井嘉浩知事は県議会で、建設規模は県民会館200億円、新県美術館100億円、集約に対する国の助成を活用すると合わせて60億円抑制されるとの見方を示した(本紙2月28日)。県美術館を現地改修した場合、既存部分の改修が20億円、増築に30億円かかる、という。

 しかし、「県美術館リニューアル基本方針」による増築案30億円は、提案時のマックス(最大値)であり、それ自体を目的としているわけではない。少子高齢化における財政問題を見据え、さらに新型コロナウイルスの影響を念頭に置くなら、「基本方針」に立脚しながら増築を回避することは、一つの選択肢となる。増築とは、例えば現在の県民ギャラリーの移設が想定されているが、まだ知恵を絞る余地はある。

 県当局は今後、メリットとデメリットを検討し、現地改修については「県美術館リニューアル基本方針」を比較の対象にしているという。一方、移転、新築にあたっても「基本方針」は尊重するという。つまりアレンジされるのである。ならば現地改修についても「基本方針」をアレンジして、増築をしないで済む次善案も許容されていい。そうでなければ、将来を展望した、利害得失の客観的な評価として、著しく公平を欠くのではないか。「移転ありき」ではなく「現地改修で経費削減」を考えることもできるはずだ。

 美術館として機能性の高い前川建築を放棄して、100億円相当の新美術館を造らなければならない理由はどこにあるのだろう。国の一時の助成があるからと言って、合計300億円相当の大型の施設を造るのは、少子高齢化、そしてコロナ以後の社会に本当にマッチしているのだろうか。検討過程が透明かつ公平で県民が納得することを強く念願している。

持論時論(2020年7月20日)

コラム一覧

移転予定地の災害リスク、適切に評価を
元外務省参与 迫久展
「マアヤン」に込められた原爆の記憶と祈り
東北大大学院医学系研究科教授 虫明元
創作を支える教育機能 維持できるか
東北福祉大鉄道交流ステーション学芸員 鈴木佳子
県環境も野外作品の一部、移動は破壊を意味する
環境造形作家 佐藤達
県民会館とは異なる性質、期待できぬ相乗効果
元劇場プロデューサー 竹村公人
美しい施設を活用し存続させよう
東北大白菊会事務局長 大村昌枝
美術館は都市の顔 時間をかけて幅広い議論を
前東北学院大学長 松本宣郎
歴史と先達の思いが創る 唯一無二の景観
無職 東北大名誉教授 蟹沢聡史
財源論による正当化が民主主義を破壊
無職 医師・東北大大学院生 矢坂健
資源生かし、周辺一帯を「猫ワールド」に
無職 三島隆司
機能性高い美術館、現地改修で経費削減を
前宮城県美術館長 有川幾夫
「建てるとは住むこと」を学べるか
東北大教授 森一郎
観光資源として作品の充実とサービス向上を
東北大名誉教授 宮崎正俊
躯体は健全、当たり前の手入れで100年もつ
建築設計事務所顧問 大宇根弘司
環境と共にある作品 移設は破壊行為
法律事務所勤務 那須香緒里
鑑賞にふさわしい環境を優先すべし
添削指導員 小林広子
建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を
医師 伊藤健太
広瀬川が生んだ立地、文化施設にふさわしい
東北大名誉教授 蟹沢聡史
移転候補地に大型ギャラリー新設を
宮城教育大名誉教授 渡辺雄彦
価値ある建物と環境を引き継いで
主婦 佐野のぶ
有形無形の芸術的資産が育まれた
美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文
県民の議論を県政に反映させよう
元宮城県職員 二階堂通正
公共施設の耐用年数をどう考えるのか
医師 中井祐之
長年かけて育てた環境を守って
会社員 木村益枝