考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

資源生かし、周辺一帯を「猫ワールド」に

無職 三島隆司(70歳・仙台市太白区)

 移転か現地改修かで揺れる宮城県美術館(仙台市青葉区)の問題。本欄にもさまざまな意見が寄せられているが、私は一つ趣を変え「猫」をキーワードに、美術館とその周辺の風景を点描してみたい。

 基点は仙台城二の丸跡。そこに東北大付属図書館があり、夏目漱石の「吾輩(わがはい)は猫である」の初版本をはじめ貴重な資料を集めた漱石文庫がある。漱石門下、当時の東北帝大教授らの計らいで太平洋戦争の戦火を免れ、仙台にやってきた。その図書館の背後にある青葉山を越えると、漱石の「草枕」に「陸前の大梅寺へ行って修業三昧」の表現で登場する大梅寺の参道に出る。県美術館の周りは、漱石の世界が広がっている。

 次に県美術館に入る。洲之内コレクションの中に、洋画家長谷川潾二郎の「猫」がある。愛猫タローを描いた作品で、制作に何年もかけた。時間をかけ過ぎ、髭(ひげ)が描かれぬまま愛猫が老いて死んでしまったというエピソードがある。今やテレビや雑誌に引っ張りだこ、全国的に人気の作品だ。東日本大震災で壁が揺れたが、作品はしっかりと留められ、守られた。

 日本を代表する彫刻家佐藤忠良氏(宮城県大和町出身)の記念館が、30年前に増設された。絵本「おおきなかぶ」(ロシア民話、内田莉莎子訳)の最終ページを飾っているのが猫とネズミを描いた忠良さんのイラストだ。この絵本を、何度も読み聞かせした親は多いだろう。原画が本館に収蔵されている。

 その記念館と本館の間に彫刻庭園「アリスの庭」が造られた。入り口付近に南米コロンビア出身の著名な彫刻家フェルナンド・ボテロのブロンズ像「猫」がある。筋骨隆々とした体つき。しなやかな肢体をした大猫は、子どもたちに一番人気だ。

 小説も絵も、絵本も彫刻も、みんな違った猫がいる。そこで「吾輩」の夢を、素描してみた。

 例えば、広瀬川ほとりの芸術的な建物で、絵本や小説、動物写真家岩合光昭さんの猫の写真、映像などをコラボレートしてはどうか。県美術館やせんだいメディアテーク、県民会館、東北大付属図書館など周辺地区の文化資源を見直し、人波が回遊するアートを企画してみる。全国の招き猫も呼ぶ。ロッシーニの「猫の二重唱」、チャイコフスキーの「長靴をはいた猫と白い猫」、フォーレの「子猫のワルツ」などの音楽も奏で、時々は宮沢賢治の「セロ弾きのゴーシュ」にも登場してもらおう。日本中のみーんな、猫も杓子(しゃくし)も全員集まれ!

 界中が、コロナ禍の中で人間生活の活動の自粛や移動制限が行われ、文化芸術施設が閉鎖された。解除後、失われた時は戻らないが、何ができるかを考える時を与えてくれた。みんなが知恵を出せば、豊かな文化を産み出すことだってできる。

 こんなにも異色の猫の集まっている「猫ワールド」は、日本広しといえども宮城県美術館かいわいしかない。「美術館の移転計画はやめてほしいニャー」。「吾輩」は、ずーっとここに住みたい。

持論時論(2020年8月2日)

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