考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

財源論による正当化が民主主義を破壊

医師・東北大大学院生 矢坂健(29歳・仙台市青葉区)

 仙台市青葉区の宮城県美術館で先日、「ウィリアム・モリス展」を観覧した。モリスが自然豊かな田舎に住居を構え、森や花、鳥といった生命への感性を育み、作品に反映していった軌跡が再現された素晴らしい展示であった。

 染色法にこだわって生み出された色彩、鳥たちの生き生きとした表情を楽しんだ後、県美術館を出ると、今度は川内の自然が目に飛び込んできた。坂道、風に揺れる木々、橋、川。覚醒した私自身の感性を、美術館の周辺の自然も大いに刺激してくれた。

 県美術館は約40年の時間をかけて、多くの県民に愛されてきた場所であり、さらに時間をかけて、価値が高まることが期待される。県美術館を愛する人間は多数派ではないかもしれない。しかし、あらゆる施設において、利用者は県民の少数派だろう。民主主義とは多数派の意見に従うことではなく、さまざまな少数派が、対話によってお互いの価値観を理解し合っていくことによって、互いの財産を守っていくことではないか。

 県美術館は、2年前のリニューアル計画に伴い、アンケートを行って多くの一般意見を募集、その未来像が構想されていた。これが国の起債制度に乗った県政によって、財源論を盾に破壊されそうになっているのである。

 未曽有の新型コロナウイルスによる危機の中、国は、国民に10万円配るのか、特定の人に30万円配るのかといった議論に時間を割き、こうした支出について将来的な増税は避けられないという声すら出ている。

 一方、日本銀行は1~3月だけで2.5兆円の上場投資信託(ETF)を買い入れている。「アベノマスク」の配布では数百億円の支出が行われている。国は財源不足なのではなく、支出先を選んでいるのだ。金融セクターや大企業への支出を温存し、文化や福祉といった公的セクターを縮小し、庶民の生活所得からの徴税を増やしているのである。それが地方自治体の運営にも影響を及ぼしている。

 資本の効率化を目指し、格差は拡大する一方で、格差を是正するために再び財源論が持ち出される。気付けば、労働者の約4割が非正規、子どもの6人に1人が相対的貧困という国になってしまった。より大きな観点では、膨張する資本によって森林が破壊され、生態系の破壊が新種のウイルスを発生させる遠因とも言われる。

 ゆがんだ金の動きと資本の独占によって、われわれの共有財産が不当にサイズダウンされ、子どもたちの豊かな生活、未来がおびやかされているのだ。国の起債制度に乗っかる形で突然出てきた政策である以上、県美術館の移転集約案はこうした道筋の延長にあると言える。

 県の説明では必ずといっていいほど、「少子高齢化によって財源確保がますます厳しくなる」という前置きが出てくる。だが、こうした財源論による正当化が、民主主義とわれわれの財産を破壊していると思う。そのことに抵抗の声を上げたい。

持論時論(2020年8月21日)

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