考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

歴史と先達の思いが創る 唯一無二の景観

東北大名誉教授 蟹沢聡史(83歳・仙台市太白区)

 仙台市の街中を緩やかに流れる広瀬川。蛇行するこの川によって形成された段丘に目を付けたのは、仙台藩祖・伊達政宗である。政宗は地形を巧みに利用した武将とも言われる。現在も、気を付けて市内を歩けば、段丘面の境は坂道になっており、古くから発展した仙台の市街地が、この段丘面の上にあるのがよく分かる。

 仙台城を守る自然の要害が、竜の口の深い峡谷だ。西側は青葉山の丘陵地帯で、御裏林が控えている。政宗はここに築城するとともに、治水の意味もあって川村孫兵衛に命じ、四ツ谷用水を張り巡らせた。総延長44キロに及ぶこの用水は、仙台城下で生活用水として使われ、下流の田畑を潤した。明治以降、大部分は地下に埋設されてしまったが、今でも所々に面影をとどめている。

 ところで、この広瀬川の両岸に発達する河岸段丘と竜の口峡谷の成因を最初に研究したのは、田山利三郎(1897~1952年)であることは、あまり知られていない。田山は宮城県村田町の出身で、宮城県師範学校(現宮城教育大)を卒業して小学校訓導となったが、学問への情熱捨て難く、東北帝大(現東北大)に入学、地質学を修め、30歳で卒業した。

 旧市街地の河岸段丘を、台の原・仙台上町(かみまち)(宮城県庁から宮町方面)・仙台中町(なかまち)(宮城県庁から一番町、西公園方面)・仙台下町(しもまち)(川内から米ケ袋にかけての両岸)に分類した。その後、海洋地質学の先駆者として太平洋に点在する島々の研究に従事した。

 田山の業績のうち特筆すべきは、ハワイ諸島北西部の海底地形を明らかにし「北太平洋海嶺(かいれい)」と名付けたことである。後に米国の地質学者ロバート・シンクレア・ディーツが「天皇海山」と名付け、世界に広まった。現在の地球の歴史を支配する運動としてのプレートテクトニクス理論の先駆けとなる研究となった。

 田山は1952年9月の明神礁(伊豆諸島の南)噴火の調査中に殉職した。仙台の文化を象徴する東北大や宮城県美術館、仙台市博物館、仙台国際センターなどの文教施設は、この河岸段丘とは切っても切れない関係にある。

 今、問題となっている宮城県美術館の設計・建設に関わった前川国男も広瀬川に発達する河岸段丘に目を付けたに違いない。川内地区の一角に構えるこの美術館は、広瀬川の歴史や自然に溶け込んでたたずむ。

 前川は「美術や芸術は本来、人間の日常茶飯事から発展してきたもので、その美しいもの、優れたものを集めている美術館は人生そのものに直結している大事なものだと考えている」と言っている。

 河岸段丘の下には新第三紀層が発達し、地盤も安定している。広瀬川が長い時間をかけて創りだしたこの自然の景観は、人々の憩いの場所となり、文化の中核としての役割を果たし続けている。

 伊達政宗、田山利三郎、前川国男。この3人の先達の思いに立ち返って、宮城県美術館の現地での保存を考えるべきであろう。

持論時論(2020年8月28日)

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