考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

美術館は都市の顔 時間をかけて幅広い議論を

前東北学院大学長 松本宣郎(76歳・仙台市太白区)

 「美術館には、そこでしか語れない物語がある」。これはひと頃、NHKのテレビで流れていた「世界美術館紀行」のイントロの言葉である。宮城県美術館(仙台市青葉区)にまつわる本紙への投稿を読み、この美術館もまた多くの人々に、ここにしかない物語を与えてきたのだと感じた。

 私にもこの美術館の物語がある。西洋史専攻の私が東北大文学部に職を得て、仙台に来たのが1978年。美術館は3年後に新設された。建設に関わった1人が西洋美術史学・西田秀穂教授で、教授会で彼が新しい美術館に世話したカンディンスキーの絵画は貴重で「とてもいい」と語っていた。私もよく足を運び、レストランでも展示場でも、よき絵と人との出会いの「物語」ができた。

 宮城県美術館の物語は、展示作品だけでなく、前川国男氏設計といい、玄関のアプローチ造形といい、児童のための創作教室といい、美術館の「場」に深く結びついて、人々の心にあるのだろう。そのような人々には、美術館が現在の場所から失われることに賛同できないのは自然だ。美術館移転を提案した宮城県知事や、諮問され、黙認した方々は「美術館との物語」を、持ち合わせていなかったのであろう。

 私はヨーロッパと地中海周辺の国々に足を運んできたが、どこへ行っても、その国、各都市の美術館や博物館を必ず訪れた。それぞれに、その都市が来訪者に見せたい誇らしい場所こそが美術館だ。多くは広大な敷地で個性的な雰囲気の環境にある。北アフリカや東地中海の国々のそれらは建物の歴史は浅いようだが、いつまでもその地の芸術の拠点たらんというたたずまいであった。

 それぞれ伝統国にあるロンドンのナショナル・ギャラリー、マドリードのプラド、フィレンツェのウフィツィとなると、所蔵する美術品の素晴らしさに加え、百年単位で長く同じ場所にある外観の風格をたたえて存在する。久しぶりに再訪した時、変わらずそこにある。都市の顔たる美術館は本来そういうものではないだろうか。

持論時論(2020年9月17日)

コラム一覧

移転予定地の災害リスク、適切に評価を
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東北大大学院医学系研究科教授 虫明元
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美術館は都市の顔 時間をかけて幅広い議論を
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「建てるとは住むこと」を学べるか
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観光資源として作品の充実とサービス向上を
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躯体は健全、当たり前の手入れで100年もつ
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添削指導員 小林広子
建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を
医師 伊藤健太
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価値ある建物と環境を引き継いで
主婦 佐野のぶ
有形無形の芸術的資産が育まれた
美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文
県民の議論を県政に反映させよう
元宮城県職員 二階堂通正
公共施設の耐用年数をどう考えるのか
医師 中井祐之
長年かけて育てた環境を守って
会社員 木村益枝