考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

県民会館とは異なる性質、期待できぬ相乗効果

元劇場プロデューサー 竹村公人(75歳・仙台市太白区)

 宮城県は、仙台市青葉区にある県美術館について現地改修、移転新築の両案の長所や短所を日本総合研究所(東京)に検討させ、秋以降に方向性を示し、年度内には基本構想の策定を目指す見通しだという。一体、そんなに急ぐ理由はどこにあるのだろうか。拙速を危惧する。

 青葉区にある東京エレクトロンホール宮城(宮城県民会館)を、県美術館と一緒に宮城野区に移転集約するメリットとして、県が挙げるのは、「経費削減」と「新しい文化芸術の拠点をつくり、集客の相乗効果を図る」の2点だ。だが、この見通しは果たして正しいのだろうか。経費削減については、既に前県美術館長の有川幾夫氏が本欄(7月20日)で明解に反論、本紙社説(8月27日)でも詳細な分析で、見通しの甘さと粗雑さを浮き彫りにしている。

 私はここで、「集客の相乗効果」について考えてみたい。結論を言えば、相乗効果は生まれない。その上で、これまで県美術館が積み重ねてきた活動は、限りなく萎縮、後退、変質に向かうと確信する。

 なぜか。その根拠を一口で言えば、県民会館と県美術館、それぞれが本領とする活動の性格と役割が相違し、利用者のニーズに乖離(かいり)があるからだ。

 県民会館は基本的に音楽や演劇、舞踊などの無形の文化財の提供、関連する活動の場とする多目的の文化施設である。そこには生身の人間同士のぶつかり合いがある。一方、県美術館は図書館や博物館と同様に本来、芸術性の高い作品や歴史的に価値のある有形の文化財を展示する専門的な文化施設だ。この無形、有形の違いは時に紙一重と誤解されることもあるが、実際は越えがたい深淵が横たわっていると思う。

 前者の営みは演者と観客が時間と空間を共有し、劇場内で共振し、昇華されていく一回限りの一体感の魅力を本質とする。終演と同時に消えてなくなる劇的世界である。感動と楽しさは、演者と観客が刺激し合うエネルギーに左右される。演者の集団にとって、使い勝手が良ければ、立地はさほど問題にはならない。時には露天やテントさえ選ばれる。

 一方、後者の営みは優れた不動の作品に触れ、鑑賞者の内面に形成される創造の世界である。静かにゆったりと流れる時間と空間の中で、いつ行っても合える作品世界の永続性に対する信頼が、確固たる基盤となる。たっぷりと時間をかけて自分流に堪能できる自由とぜいたくこそが、この種の鑑賞の醍醐味(だいごみ)であろう。故に鑑賞の対象は、しばしば周辺環境やその歴史にまで広がっていく。鑑賞者が、建物のたたずまいや立地に強くこだわる理由もここにある。

 県民会館と県美術館の利用者は本来、程度の差はあれ、それぞれ異なる芸術的価値観と鑑賞スタイルを大事にしている。両者の違いを尊重せず、強引に統合する試みは、必ず失敗する。県にはいま一度、立ち止まって熟慮することを望みたい。

持論時論(2020年9月29日)

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