考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

環境も野外作品の一部、移動は破壊を意味する

環境造形作家 佐藤達(74歳・パリ)

 宮城県美術館(仙台市青葉区)の移転計画に対する反対運動が、仙台市民から宮城県民、全国に広がっていると聞きます。高名な建築家・前川国男の設計した美術館となれば、日本の損失であると、県に異議申し立てされるのは当然でしょう。佐藤忠良記念館やアリスの庭、世界的な環境造形作家であるダニ・カラバンさんの作品など、どれもが大切な作品です。

 パリで50年以上、芸術活動をしている私は、美術評論家の紹介でカラバンさんと知り合い、交流しています。笑顔の優しい、すてきな人。オーラを感じさせます。制作には厳しく、粘り強い。憧れの芸術家です。

 私の郷里は登米市です。帰国してたまたま仙台に滞在していた時、県美術館の前庭でカラバンさんの立体作品「マアヤン」の完成記念式典がありました。1995年8月のことです。祖国代表で駐日イスラエル大使も出席。カラバンさんは式典で「『マアヤン』はヘブライ語で泉。泉は生命。美術館の前庭に緊張感を与える満足いく作品になった」と話しました。

 カラバンさんは高松宮殿下記念世界文化賞を受賞している芸術家です。「マアヤン」は美術館の柱や庭を取り入れ、歴史や地形、自然環境、生態学などを把握し、彼の祖国イスラエルと日本とのつながりに思いを寄せて制作。既にそこにあったケヤキの木と美術館の柱の間に造られた8本の柱(1本は美術館の柱)と水路から成り、位置や方位も計算して制作されています。あの場所でなければ作品は存在し得ません。作品の移動は作品を破壊することを意味します。

 フランスと日本では、芸術作品に対する対応が大きく異なります。フランスでは、公的機関が野外作品や壁画作品を設置した場合、購入者側が作者の意見を聞かずに作品の移動や破棄をすることはできません。芸術家の作品は法的に保護されています。それは人類に芸術は不可欠であるという考え方に基づいているからです。

 芸術作品と出合い、感動を受けることは、色彩感覚や観察力、創造力、直感力が養われ、未来に夢を描く幼児や義務教育には欠かせない重要な学習です。芸術は時には人の心を癒やし、心と体の免疫力を高めます。多くの人々に生かされてきた県美術館だから、移転反対運動が起こるのは必然です。「マアヤン」の作品騒動を機に、真の意味での先進国として、芸術に対する対応を日本でも高めていってもらいたいと思います。

 以前、パリ第8大学で講師をしていたことがあり、授業で毎年1回、学生を連れてユネスコ本部に設置されているカラバンさんの作品を見学に行きました。日本では札幌市の札幌芸術の森野外美術館と奈良県宇陀市の室生山上公園芸術の森にある彼の作品を訪ねました。いずれの作品もきちんと保管されていました。

 私の故郷である宮城県で、カラバンさんの作品を破棄することなく、今ある美術館で永遠に光を放ち続けてほしいと願っています。

持論時論(2020年10月21日)

コラム一覧

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元外務省参与 迫久展
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県環境も野外作品の一部、移動は破壊を意味する
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建築設計事務所顧問 大宇根弘司
環境と共にある作品 移設は破壊行為
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建物の活用へ財政問題含めオープンな議論を
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移転候補地に大型ギャラリー新設を
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価値ある建物と環境を引き継いで
主婦 佐野のぶ
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美術家 前宮城県芸術協会理事長 大場尚文
県民の議論を県政に反映させよう
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公共施設の耐用年数をどう考えるのか
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長年かけて育てた環境を守って
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