考えよう、宮城県美術館のコト。

コラム

やまぬ声尊重し歩み寄りを

 仙台市青葉区川内にある宮城県美術館の移転を巡る問題は、11月から年末にかけてヤマ場を迎える。

 仙台医療センター跡地(宮城野区)への移転構想を、県が突如として有識者会議に示したのは昨年11月のことで、はや1年になる。

 この間、現地存続を求める市民運動の広がりとさまざまな立場からの提言によって、論議は深まりを見せた。

 県政史上、大きな政策課題は数多くあった。しかし、美術館移転ほど、県民が行政手続きに疑問を投げ掛け、拙速さを憂い、科学的な知見と論理、時には一人一人の思いをもって対峙(たいじ)したことはなかったのではないか。

 宮城の地に「土着の民主主義」を呼び起こし、貴重な経験と大きな糧を培ったとも言えよう。

 税金や個人・団体からの寄付金を投じて造られ、親しまれた「県民共通の財産」であると身に染みて学んだことも無視してはなるまい。

 県は近く移転か存続か、方向性を出す。こうした経緯を踏まえずに当初の方針にこだわれば、禍根を残し、行政不信を招くだろう。

 全国の文化人、自治体からも注目されている。多くの願いを受け止め、歩み寄りを探るべきだ。

 県は現在、移転と現地改修の両案の調査分析をコンサルタント会社に委託している。調査結果を基にメリットとデメリットを比較検討し、判断した上で基本構想を作る。

 来年1月に中間案、3月までに最終案にこぎつけたいという。

 ただ、このプロセスには、首をかしげたくなるところがある。業者にまとめさせた調査報告をたたき台にして、発注者自身が判断するというのは、公平性の観点から見てどんなものだろう。

 まず、専門的な視点を欠くことになる。美術家や建築家、まちづくりのエキスパートなど、外部の意見を聞いてみるのが定石ではないか。

 昨年度、移転問題を審議した有識者会議には美術に詳しい委員はおらず、批判を浴びた。二の舞いにならないか。

 情報公開の面からも問題をはらんでいる。当面のスケジュールによると、方向性を判断した後に県民向けの説明会を開き、理解を得たいという。これだと事後報告の性格となり、方針を伝えるだけの場になりかねない。

 美術館問題では、いつものパブリックコメントなどでは済まされず、広く意見を差し挟む双方向の対話集会をいち早く開いてもらいたい。

 オープンな議論のために、コンサル業者の調査結果を全て明らかにし、事前公表も求めたい。

 ほかにもクリアすべき点をもろもろ抱える中で、移転というのは現実的とは思えない。今の場所に残して語り継いでいく。これでみんな丸く収まるのではないだろうか。

社 説(2020年11月3日)

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