人口減少や少子高齢化といった課題の解決に向け、情報通信技術(ICT)を活用した取り組みが各地で進んでいる。地域の実情に応じて次世代を担う人材を育て、生産性を向上させる新たな手法が注目を集める。河北新報社は「スマート社会へ〜地域を創る新しい力〜」と題し、東北と新潟の有力紙との8社共同企画としてICTにスポットを当て、各地の活動と彼らに期待する人たちを紹介する。

   〜東北・新潟8新聞社合同企画〜
 河北新報社、 東奥日報社、岩手日報社、
 秋田魁新報社、山形新聞社、福島民報社、
 福島民友新聞社、新潟日報社

特集

■ 秋田県 男鹿市

農作業効率化目指し実証事業

画像の説明

<生育管理を省力化/労働時間減り出荷安定>

 男鹿市の園芸メガ団地で、農作業の効率化を図る「スマート農業」の実証事業が行われている。若手生産者らが新技術を活用して約50種の小ギクを栽培。作業時間は3割短縮され、需要期の安定出荷にもつながっている。
 仏花として小ギクの需要が高まる彼岸を控えた9月上旬。生産者が最新鋭の機械を操作し、刈り取りを進めていた。従来のように人の手で一本一本収穫するより圧倒的に速い。手作業と同様、花を傷つけずに収穫することもできる。
 「ナマハゲ」で知られる男鹿市は古くからの花卉(かき)産地でもある。園芸メガ団地の畑で小ギク栽培を担うのは地元の生産者9人でつくる「男鹿・潟上地区園芸メガ団地共同利用組合」だ。秋田県、JA秋田なまはげ、農機メーカーなどとコンソーシアムを構成。2019年度から2年間、農林水産省から委託を受けてスマート農業の実証事業に取り組む。

画像のタイトル
最新鋭の機械を使って小ギクを刈り取る生産者=9月3日、男鹿市の園芸メガ団地
小ギクの開花時期を調整するため、園芸メガ団地では、夜間にLED電球で照らす電照栽培も実施=2019年7月4日(秋田県提供)

<コメ偏重打開へ>

 秋田県内の農業はコメ偏重の構造改善が長年の課題だ。県は生産者の収入アップにつなげようと、園芸作物の生産に力を入れる。ただ、花卉は野菜より細やかな管理が必要とされ、限られた人手で規模を拡大するには限界がある。生産量が増加傾向にある小ギクの栽培にスマート農業技術を活用することにしたのだ。
 刈り取りに加え、苗を植える作業や切り花の長さをそろえて束ねる作業にも、最新鋭の機械を導入した。畑にはカメラやセンサーを設置。生産者がスマートフォンで状況を確認できるようにし、見回りの省力化にもつなげた。
 「従来は何度も畑に入り、生育状態を確かめながら手で一本一本収穫していた。時間がかかるため、花の鮮度が落ちてしまうことが課題だった」。共同利用組合の吉田洋平組合長(31)が振り返る。「機械を使えば速いし、刈り取り精度も高い。労働時間の削減と省力化が期待できる」
 実証事業では、夜間に耐候性発光ダイオード(LED)電球で小ギクを照らす電照栽培も実施した。開花時期を需要期のお盆や彼岸に向けて調整するためだ。
 小ギクは生育期間中の日の長さが短くなると、花芽を作って開花する性質を持つ。この性質を利用し、夜間にLED電球で光を当て続けることで小ギクに日の長さを実際より長く感じさせ、需要期に一斉に収穫できるようにした。

<課題は初期投資>

 秋田県によると、小ギク栽培を手作業で行うと年間で671時間かかるが、今回の実証事業が始まった19年度の集計では459時間となり、作業時間は32%削減された。需要期に出荷できる割合は90%を超え、従来より大幅に高まった。
 スマート農業を普及させるには、高額な初期投資がネックになる。実証事業では補助金を活用できたが、生産規模がそれほど大きくない生産者や法人が個別に始めるのは容易ではない。
 秋田県の担当者は「実証事業を踏まえ、どれぐらいの生産規模であれば採算が取れるかをはじき出し、今後に生かしていきたい」と語る。将来的には大規模生産を進め、「もうかる農業」を実現させたい考えだ。

期待しています!

名前
山形敦子さん

<電照効果生かして収入増を/山形敦子さん(秋田県農業試験場主任研究員)>

 スマート農業の実証事業に取り組むコンソーシアムの代表は、秋田県農業試験場野菜・花き部主任研究員の山形敦子さん(45)。電照栽培によって小ギクの開花時期を調整する技術の確立を目指しており、「実証事業を通し、電照栽培の効果が出やすい品種を絞り込むことができた」と手応えを語る。
 今回の実証事業は、県農業試験場が電照栽培に元々取り組んでいたこともあってスタートした。気象条件が毎年異なるため、試験場で開花時期の調整に成功した品種が、実際の畑ではうまく調整できないこともあったという。
 今後は電照栽培の普及にも力を入れる。「電照設備を整えるにはコストがかかり、導入に踏み出せない農家もいるのではないか」と山形さんは言う。それでも、需要期に安定出荷ができれば生産者の収入アップにつながるとして、導入効果を伝えていく考えだ。

名前
太田雅樹さん

<需要期即応産地PRへ強み/太田雅樹さん(JA秋田なまはげ男鹿地区営農センター)>

 農家が栽培した小ギクの販売を担うのがJA秋田なまはげだ。営農経済部男鹿地区営農センターの太田雅樹さん(27)は「実証事業を通じて需要期の出荷量は大きく増えた。必要とされる時に十分な量を出荷できることは、市場に産地をアピールする上で強みになる」と話す。
 男鹿・潟上地区園芸メガ団地共同利用組合の組合員が栽培した小ギクは、JAを通じて秋田県内や北海道、関東、関西の市場に出荷される。実証事業を始める前と比べ、栽培面積を1ヘクタールほど増やし、出荷量は約25万本増えた。
 スマート農業を導入すれば、作業時間を短縮できるだけでなく、品質を一定に保ちやすい利点もあるという。太田さんは「高齢化が進む秋田県では離農者も増えている。先進技術を活用しながら、スマート農業にチャレンジする生産者をこれからも支援していきたい」と語る。

取材:秋田魁新報社政治経済部・木村織音

先頭に戻る