人口減少や少子高齢化といった課題の解決に向け、情報通信技術(ICT)を活用した取り組みが各地で進んでいる。地域の実情に応じて次世代を担う人材を育て、生産性を向上させる新たな手法が注目を集める。河北新報社は「スマート社会へ〜地域を創る新しい力〜」と題し、東北と新潟の有力紙との8社共同企画としてICTにスポットを当て、各地の活動と彼らに期待する人たちを紹介する。

   〜東北・新潟8新聞社合同企画〜
 河北新報社、 東奥日報社、岩手日報社、
 秋田魁新報社、山形新聞社、福島民報社、
 福島民友新聞社、新潟日報社

特集

■ 宮城県 石巻市

ICTで農業の担い手育成

画像の説明

<若者呼び込み交流促す/専用アプリ開発も計画>

 若者の就農へのハードルを下げようと、石巻市北上町の一般社団法人「イシノマキ・ファーム」は、情報通信技術(ICT)を使った担い手の育成を推進している。目指すのは、ベテラン農家の知見も加えた「デジタルとアナログを融合させた農業」の実現だ。

画像のタイトル
「田伝むし」の田んぼで小型気象計の機能などについて話す(左から)高橋さん、木村さん、小型気象計を販売する千代田組の栗田栄次社長=9月30日、石巻市和渕
ホップのつるから、ビールの原料となる毬花(きゅうか)を摘み取る作業。ICT化で若者の就農の機会が広がることが期待される=7月20日、石巻市北上町

<社会復帰後押し>

 イシノマキ・ファームは2016年、引きこもりなどから社会復帰を目指す若者らの就農を支援する目的で設立された。トマトやキュウリ、ネギの生産量が宮城県内1位を誇り、水産業だけでなく農業も盛んな石巻で、1ヘクタール弱の畑にジャガイモやカボチャのほか、ビールの原料となるホップも栽培している。
 さまざまな人が交流する「ソーシャルファーム」構想を描く。代表理事の高橋由佳さん(56)は「高齢化が進む地域で農業を継承するには、若い力が必要。若者に農業への興味を持ってもらう入り口にしたい」と話し、人づくりの一環としてICT化を進める意義を強調する。
 導入の手始めに、気温や雨量、日照時間などの実測値と積算値を計測できる小型気象計の設置を進めている。データを活用した上でベテラン農家の経験に基づいた栽培技術を加えれば、質の高い農業を展開できると見込む。
 先進事例も積極的に学んでいる。ササニシキの栽培管理に役立てるため、気象計を今春設置した農業生産法人「田伝むし」(石巻市和渕)代表取締役の木村純さん(51)からは、新しく農業を始める人に取り組みやすいツールになるとのアドバイスを受けた。「積算温度によって、田んぼの深水管理がしやすくなる」と木村さんは話す。

<就職望む学生も>

 21年度からは、就農希望者の教育プログラムの一環として、専用アプリの開発にも取り組んでもらう計画だ。アプリに反映させる地域情報を得るには、高齢者との交流が不可欠で、それがひいては地域おこしの方策として役立つ。高橋さんは「農業を契機に、人口減少が進む地域を盛り上げることができる」と期待を寄せる。
 イシノマキ・ファームは石巻市から受託した「農業担い手センター」の機能も併せ持つ。これまで、主に東京都や千葉県、神奈川県といった関東圏から30、40代を中心に11人の新規就農希望者を受け入れてきた。
 先進的な農業を目指す関東圏の大学生からはイシノマキ・ファームに就職したいとの問い合わせもあり、推し進めるICT化には手応えを感じている。
 高橋さんは「農業を持続可能な産業とするためにもICT化は必要。就農への機運を盛り上げることにもつながる。一歩ずつ着実に前に進み、成果を上げたい」と話している。

期待しています!

名前
栗田 栄次さん

<ゲリラ豪雨を把握 防災にも/栗田栄次さん(千代田組代表取締役社長)>

 東日本大震災の復興支援を機に、イシノマキ・ファームとの交流を進める社会・産業インフラの専門商社「千代田組」(東京)の栗田栄次代表取締役社長(61)は「最新の技術と継承すべき知識を組み合わせた農業の新しい姿を模索する姿勢に共感している」と力を込める。
 千代田組は、イシノマキ・ファームが設置を進める小型気象計を販売している。「ゲリラ豪雨など局所的な気象の変化をリアルタイムで把握することが可能となる。洪水などの防災対策にも役立つ」とその有効性を強調する。
 イシノマキ・ファームが手掛けるホップ栽培についても「気象計のデータを生かし、最適な刈り取り時期を見極めてほしい」と要望する。畑での収穫は脚立に乗って作業するため思った以上に重労働で、収穫後は新鮮さを保持することが求められる。栗田さんは「省力化を進め、さらに高品質な製品ができるよう、保存方法などの新しい方策を一緒に考えたい」と話す。

名前
新堀 勝康さん

<地ビール販売 次はぜひ缶で/新堀勝康さん(UACJ取締役兼常務執行役員)>

 アルミニウム製造の国内最大手「UACJ」(東京)は社員研修の一環として、イシノマキ・ファームのホップ畑での栽培体験を予定するなど、寄り添った活動を展開する。新堀勝康取締役兼常務執行役員(62)は「ICTを活用することで、次世代の農業者育成をどんどん進めてほしい」とエールを送る。
 社会貢献の一環として次世代の育成支援にも力を入れているUACJは、新規農業従事者の受け入れ姿勢に関心を寄せる。今春予定していた社員研修は、新型コロナウイルスの影響で来年以降に延期になったものの、「良きパートナーであることに変わりはない。今後はもっと交流を深めたい」と話す。
 イシノマキ・ファームが2017年から販売しているクラフトビール「巻風エール」は瓶詰のみの商品。UACJは飲料缶用板材の製造も手掛けており、新堀さんは「アルミ缶でおいしいビールを販売できたらうれしいですね」と目を細める。

取材:河北新報メディアセンター・村上穣司

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