人口減少や少子高齢化といった課題の解決に向け、情報通信技術(ICT)を活用した取り組みが各地で進んでいる。地域の実情に応じて次世代を担う人材を育て、生産性を向上させる新たな手法が注目を集める。河北新報社は「スマート社会へ〜地域を創る新しい力〜」と題し、東北と新潟の有力紙との8社共同企画としてICTにスポットを当て、各地の活動と彼らに期待する人たちを紹介する。

   〜東北・新潟8新聞社合同企画〜
 河北新報社、 東奥日報社、岩手日報社、
 秋田魁新報社、山形新聞社、福島民報社、
 福島民友新聞社、新潟日報社

特集

■ 岩手県 盛岡市

生育環境制御 通年収穫を実現

画像の説明

<トマト栽培 ハウス内の空調を最適化/年間収量 大幅にアップ>

 情報通信技術(ICT)が、岩手県の農業の可能性を引き出している。トマト生産の盛岡市猪去(いさり)のいわて若江農園はコンピューター制御で最適な生育環境をつくり、通年収穫を実現。年間収量は県平均の約6倍に達した。先端技術で生産性を高める試みが広がりつつある。
 同社は20アールの鉄骨ハウス2棟にICTを導入している。隣室のモニター画面には各種センサーが24時間測定する温度や湿度、二酸化炭素濃度などの量を折れ線グラフで表示。ヒートポンプや炭酸ガス発生装置、窓の開閉などと連動し、トマトを栽培するハウスの最適な環境を保っている。
 寒冷な岩手県では、ハウス栽培でも収穫は6〜10月ごろに限定される。同社はICTを採用し通年で収穫できるようになった。これにより2019年7月までの10アール当たりの年間収量は県内の民間事業者で初めて40トンに達し、県平均の7トンを大幅に上回った。季節を問わず出荷でき、パート全13人を通年雇用している。

画像のタイトル
豊かに実ったトマトを確認するいわて若江農園の若江社長。ICTを生産性向上につなげている=10月19日、盛岡市猪去
ハウス内で作業する従業員。通年栽培により、通年雇用を実現している

<データ蓄積図る>

 最適な生育環境を保つには定期的なデータ検証が欠かせない。毎週金曜日に、県の農業普及員を交えた社内ミーティングを開催。生育状況の調査結果などを基に、翌週の環境設定や管理方法を決める。検証を繰り返し、将来は年間収量50トンを目指す。
 若江俊英社長(48)は10年ほど前に会社員から転身。勘と経験に頼った従来型の農業から、データに基づく農業への転換を図ってきた。「管理の精度向上はピカイチ。これまでの農業は職人技に頼るところが大きかったが、データの蓄積があれば、より良くするための議論もしやすい」と有効性を説き、「他産業に負けない所得水準に引き上げたい」と力を込める。
 環境制御技術は同社が16年、国の補助金を活用し県内で他に先駆けて取り入れた。県によると、19年度末現在で14経営体が用いる。県が導入費用を補助する制度もある。
 農業は人手不足が深刻化している。農林業センサスによると、15年の県内農業就業人口は7万357人で05年比38.3%減少。平均年齢は67.4歳で3.5歳上昇した。こうした中、生産力を維持するにはICTの普及が重要性を増す。一方でスマート農業の知識が不足する農家は多く、情報発信力の強化が問われる。

<キュウリも視野>

 県は北上市の県農業研究センターに環境制御システムを取り入れたハウスを整備し、収量増や作業負担軽減などの実証成果の普及を図っている。さらに本年度は、軽米町の県北農業研究所にも拠点の整備を進めており、県北地域で作付けが多いキュウリを対象に実証に取り組む。
 ICT導入は高額な初期投資を要するため、個人経営農家にとってはハードルが高いのが現状。県農産園芸課の中森久美子園芸特産担当課長(53)は「より低コストで導入しやすい制御機械や技術の開発も進めており、経営状況や規模に見合った導入支援を進めたい」と語る。
 産地力の強化に向け、先端技術と向き合う必要性が高まっている。

期待しています!

名前
武蔵 卓也さん

<冬場の雇用維持 大きな利点/武蔵卓也さん(武蔵ふぁーむ社長)>

 環境制御ハウスで生産性を高める試みは、現場に浸透し始めている。トマトを生産している盛岡市上太田の武蔵ふぁーむは、2019年9月に鉄骨ハウスを整備し、今年6月末までに1作目の収穫を終えた。収量は従来の3倍程度まで向上し、武蔵卓也社長(42)は「びっくりするほど取れた」と手応えを語る。
 通年栽培が可能になったことで、従業員の通年雇用が実現した。水稲を組み合わせた複合型の経営を実践しており「これまでは繁忙期に合わせて人手を確保するのが大変だったが、冬場も雇用を維持できるメリットは大きい」と実感する。
 環境制御に必要な知識を学ぶため、同様に取り組む生産者と一緒に県外へ視察に出向くなど、情報交換の機会を大事にする。「お互いにレベルアップを図りながら、他の地域に負けない産地をつくっていきたい」と意気を高める。

名前
小原 繁さん

<園芸産地力強化へサポート/小原繁さん(岩手県農業普及技術課総括課長)>

 岩手県は、園芸産地力の強化に向けて、現場への情報通信技術(ICT)の普及に力を入れる。農業普及員が生産者と連携しながら、最新のデータを集め、収量アップに向けた指導を行っている。先進的な事例は、後に続く経営体と共有している。
 県農業普及技術課の小原繁総括課長(57)は「現場では周年生産や雇用創出などの成果が徐々に出てきており、後継者育成の面でも期待ができる。トマトで先行しており、キュウリなど他の果菜類でも展開できればいい」と見据える。
 導入経営体への集中支援チームをつくり、チーム同士が情報を共有することで、全体の底上げを図るほか、オーバースペックを防止するための研究も行っている。「チャレンジする人をしっかりとサポートし、仲間を増やしてもらうことで、産地を確立させたい」と展望する。

取材:岩手日報社報道部・鎌田佳佑

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