■ 福島県 会津若松市
公共交通サービス向上アプリ開発

<鉄道バス一括決済、予約で効率よく運行/生活や観光 より便利に>
会津若松市で情報通信技術(ICT)を活用し、鉄道やバス、タクシーなどの利用者の利便性を高めるプロジェクトが進む。公共交通機関の利用をより円滑にする各種アプリを開発し、実証実験を通して実用化を目指している。会津若松は東北地方屈指の観光地。市外の交通機関との連携もできれば、来訪者増につながると期待される。


<3カ年かけ実験>
市や市内のICT関連企業、公共交通機関などでつくる「会津SamuraiMaaS(サムライマース)プロジェクト協議会」が2019年度から3カ年計画で取り組んでいる。生活、観光両面の移動をより便利にするため、構成する企業や団体などが連携しながら実験を進めている。
「MaaS」(Mobility as a Service=マース)とは、さまざまな交通手段による移動のルート検索や予約、支払いなどを一つのサービスとして統合する概念。世界各国で実用化が進む。
初年度は、会津地方南部に位置する下郷町の観光名所・大内宿へのアクセスを向上させるため、鉄道とバスの運賃の一括決済アプリを開発した。会津若松市内との往復に要する会津鉄道会津線と町内のバスの運賃を事前に支払えるアプリで、今年4月に実用化にこぎ着けた。
現在、協議会を構成する会津乗合自動車(会津バス)で、人工知能(AI)を使ってルートを計算し、効率よく運行する実証実験を展開している。
利用者は乗車する前日までにスマートフォンのアプリで予約。AIは利用者がいないバス停前は通らないなど、最適な運行ルートを割り出し、最寄りのバス停への到着予定時刻を通知する。実験では、利用対象を市内の同じ場所に勤務する民間企業1社の従業員の通勤・帰宅用に限定。今後、効果を検証し、一般の路線バスへの導入も検討する。
<相乗り相手探す>
今月12日には、相乗り型タクシーの利用者向けアプリの実証実験も始まった。公共交通の空白地域である市内の金川町や田園町ではコミュニティーバスが走っているが、平日の1日3便に限られており、相乗り型タクシーはバスを補完するために運行している。アプリによってそのタクシーの利用を支援。行きたい場所を入力すると、目的地が近くて相乗りできる相手をマッチングして配車する。1人当たりの運賃負担を低く抑える効果を狙っている。
市内を含む会津地方では高齢化が進む。マースを定着させるには、主な乗客となる高齢者が機器を使えるよう、いかに手を差し伸べるかが鍵になる。
相乗り型タクシーを利用する高齢者向けに今年6月以降、月2回、スマートフォン教室を開いている。受講者の一人、市内の無職石本マサ子さん(86)は文字を入力できるようになったものの、戸惑う操作も多く「悪戦苦闘中です」と苦笑いを浮かべた。
協議会の事務局長を務める建設コンサルタント会社ケー・シー・エス(本社東京)の石田洋平上席技術主任(42)は「今はマースのパーツを作っている段階。それぞれをつなぎ合わせ、マイカーがなくても不自由なく暮らせる社会を実現させたい。普及のためにも、簡単に操作できるアプリにしたい」と意気込む。
期待しています!

<出歩きやすい社会づくりを/佐藤俊材さん(会津乗合自動車社長)>
会津乗合自動車社長の佐藤俊材(としき)さん(47)は、利用者が減少傾向にある公共交通を維持させるため、マースは有効な手段と捉えている。「人が出歩きやすい社会づくりにつなげたい」と語る。
一般路線での運用を目指すAI活用バスは、高齢者の使い勝手を良くし免許返納の流れを加速させる狙いもある。豪雪地帯の会津若松市内では、冬期間に停留所でバス到着を待つのも負担になる。バスの運行状況をスマートフォンで随時確認できれば、寒さや暑さ、風雨をしのぎながら待つ時間を減らす効果が見込める。走行ルートの効率化で運転手不足にも対応できる。
社を挙げてプロジェクトを後押ししようと、協議会の会長職も引き受けた。マースで培った技術は多方面に応用できると考える。「スーパーマーケットのタイムセールの情報を随時スマートフォンに表示すれば、人の流れが生まれる。街全体を元気にするため使い道はいろいろあるはず」と強調する。

<高齢者の外出を促す契機に/二瓶庄平さん(金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会事務局長)>
相乗り型タクシーの実証実験に携わる金川町・田園町住民コミュニティバス運営協議会の事務局長、二瓶庄平さん(71)は「スマートフォンに慣れない高齢者が置いてきぼりにならないよう、支えられるかが一番の課題」と話す。
公共の移動手段がない金川町、田園町の移動手段を確保しようと住民自らが組織をつくり、2014年からコミュニティーバスを運行してきた。移動手段を増やすため、会津SamuraiMaaSプロジェクト協議会の提案を受け、相乗り型タクシーの運行実証に協力することになった。
利用者は市街地で買い物をしたり、通院したりする高齢者が中心。相乗り型タクシーは高齢者の外出機会を増やし社会活動を促進するきっかけにもなると期待する。その一方で高齢者がアプリなどをうまく使えるよう、操作を根気強く教える必要性も感じる。「新技術になじめない人にも寄り添っていかねばならない」と語る。
取材:福島民報社会津若松支社報道部・柳沼光