観賞記>チェーホフ劇「結婚の申込み」二部作 演出・鈴鹿景子さん

「結婚の申し込み」の方言版。居間のセットも工夫=鈴鹿景子事務所アトリエ
「結婚の申し込み」の標準語版=鈴鹿景子事務所アトリエ

 チェーホフ原作の劇「結婚の申し込み」が方言版と標準語版で上演された。演出は女優でもある石巻市出身の鈴鹿景子さん。場所はJR大森駅が近い、鈴鹿さんのアトリエ(東京・大井)。

 登場人物は3人のみ。40歳になろうとする鳶吉が、隣の大地主・番助の家に行き、番助の娘・とみえとの結婚を申し込む。行き遅れの娘を心配していた番助は大賛成だったが、食い違いから話はねじれていく。

 舞台をロシアから日本に置き換えて、先に方言版、休憩を挟んで標準語版を上演。時間にして約30分ずつの芝居だった。ユニークな2本立て。客席から何度も笑いが起きた。滅多にない観賞体験になった。

 結婚話そっちのけで、土地の所有権をめぐって言い争う男と父娘。とみえは鳶吉を追い払ってから鳶吉の用件が分かって慌てる。好意を寄せていたからだ。番助が鳶吉を連れ戻すが、別の件で再び口論に…。

 人間の愚かさ、おかしみを愛したチェーホフ得意の喜劇だ。これを方言と標準語で見比べる試み。同じ話でも、方言だとドタバタ調に、標準語だとちょっと洗練された都会派コメディーに見えたから不思議だ。

 出演俳優にも趣向を凝らした。方言版と標準語版で変えた。番助役だけは同じ高橋哲彦さんで、巧みに使い分けた。見どころは鳶吉役ととみえ役のダブルキャスト。方言版が鈴木幸生さんと海苔野りのさん、標準語版が堀越健次さんと杉本朋美さん。若手組対ベテラン組。対比で見せた。

 居間のセットの違いも面白い。壁に掛かっているのが片やお面、片や絵画。方言版は東北地方らしく、標準語版は東京近郊に見えるように工夫していた。

 女優として方言による一人芝居に取り組んできた鈴鹿さんにとって、「結婚の申し込み」は演出家としての新たな挑戦だった。改めて気づかされたことは方言の持つ温かみ、表現の豊かさだった。

 鈴鹿さんは「東京の観客には意味の分からない方言もあったはずだが、ニュアンスで伝わったのか、笑ったり、反応したりしてくれた」と喜んだ。

 今回は、秋田弁にアレンジした脚本を基にした。鈴鹿さんは「いつか石巻弁でやりたい。古里での上演を実現させたい」と意欲を新たにした。

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 「結婚の申し込み」は6月27〜30日、鈴鹿景子事務所アトリエで行われた。千秋楽を観賞した。(久野義文)


2019年07月14日日曜日


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