石巻専大・ソフトバンク産学連携プロジェクト>鼎談「復興と産学官連携」

(左から)池田部長、亀山市長、尾池学長
亀山市長
尾池学長
池田部長

 ソフトバンク株式会社と石巻専修大は本年度までの3年間、人型ロボットPepper(ペッパー)を活用した連携事業を展開してきた。石巻市と包括連携協定を結び、情報通信技術(ICT)を活用した地域課題の解決にも取り組む。

 東日本大震災からの復興に向けた連携の意義と成果、展望を亀山紘市長、池田昌人ソフトバンクCSR統括部統括部長、尾池守石巻専修大学長が話し合った。

【出席者】
石巻市長・亀山紘氏
石巻専修大学長・尾池守氏
ソフトバンクCSR統括部統括部長・池田昌人氏
(司会:三陸河北新報社取締役編集局長・今里直樹)


◇包括連携協定

−ソフトバンクと石巻専修大、石巻市は昨年1月、包括連携協定を締結した。この1年の活動をどう評価するか。

亀山氏>
 ソフトバンクグループ株式会社の「Pepper社会貢献プログラム」を通し、子どもから大人まで関心を持って多様な実践に取り組んだ。ロボットを操る子どもたちの豊かな想像力を引き出した。
 協定は多世代の教育に大いに役に立っている。協定を結ぶことで大学、ソフトバンクの力が結集でき、素晴らしい形になった。

池田氏>
 ソフトバンクがCSR(企業の社会的責任)の視点で石巻と接点を持ったのは震災だった。震災直後は携帯電話の貸し出しなど通信事業者として支援した。暮らしを豊かにする活動は単体では難しく、歯がゆい思いだった。
 包括連携協定は3者がそれぞれ強みとする分野を持ち寄り、課題に取り組む。ビジネスなら発注者と受注者は主従の関係になるが、3者が同じ方向を向き、市民に何を、いつまで提供できるかを議論し、組み立てていけるようになった。

尾池氏>
 3年ほど前、地域の高校と高大連携に取り組んだ。より社会に貢献できるプログラムを探り、始まったのが高大産連携だ。最大の「産」はソフトバンクだった。3年計画で進め、活動の目玉としてPepperがあった。
 残り1年となったとき、石巻市と連携協定を結んだ。石巻市は強力なバックボーンになる。高校と大学が中心だった活動が小中学校へと広がった。現在、大学の硬式野球部がソフトバンクのツールを使い、山下中野球部を指導している。

◇高大産連携

−石巻専修大がソフトバンクなどと推進した高大産連携は復興を歩む石巻市に活力を生み、育んだ。その意義を市はどう見るか。

亀山氏>
 震災発生時、石巻専修大はボランティアの拠点となり、復興に絶大な役割を果たした。石巻は被害が甚大だった半島沿岸部を抱え、地域ごとにさまざまな課題が生じた。再建に何が必要か、大学の知見を基に協力をもらった。
 産業振興の面では、具体的なプロジェクトを展開するまで進んだ事例もある。一連の取り組みは復興を加速させ、10年後、20年後の石巻の発展に資するだろう。石巻に大学があって本当に良かったと思っている。

−復興支援、大学自らの復興という視点で高大産連携をどう捉えるか。

尾池氏>
 復興には物の復興、心の復興があり、その先に復活、再生がある。本学は震災直後にボランティア拠点となり、その後は仮設住宅の調査やボランティアを通し、被災地に今、何が必要か探ってきた。
 高大産連携は3者が力を合わせ、今までとは違う視点で目的を設定し、社会に発信する取り組みだ。自分たちで課題を見つけ、解決に向けた新たなプログラムを立ち上げることが大切になる。活躍の場を提供してくれたのがソフトバンクであり、石巻市だ。震災から時間がたち、市民の心の余裕も多少できたような気がする。石巻に大学があって良かったと思ってもらえる取り組みを続けたい。

−ソフトバンクと被災地の関わりは復興支援というCSRだった。

池田氏>
 発災から今まで走り続けてきた。最初に始めたのが「チャリティホワイト」という新料金プランの取り組み。ユーザーに毎月10円の寄付をお願いし、ソフトバンクが10円を加え、毎月20円を被災地の子ども支援団体に届ける。約300万人が参加し、累計11億円に上った。
 震災支援のため自治体、大学、NPOと話し合い、やれることを模索してきた。苦悩もあったが、地元のプレーヤーや市、石巻専修大の方々と膝詰めで話しをすることで、次第に人間関係が構築されていった。
 ソフトバンクは復興支援を機に、各地にCSRの社員を配置した。東北は仙台を拠点に12人のCSR専門の社員がいる。担当する市町村と人間関係を築き、状況を把握し、企画、実践する新しいCSRへと発展したのはうれしい成果だ。

◇Pepper社会貢献プログラム

−Pepper社会貢献プログラムは最終年度になる。石巻圏でも多様な取り組みが展開された。

池田氏>
 プログラムの目的は二つ。小中学校で取り組んだ「スクールチャレンジ」は新年度に始まるプログラミングの授業を前に、Pepperを使ってプログラミングの魅力を伝えた。二つ目は「ソーシャルチャレンジ」。プログラミングのツールとして、Pepperがどんな社会的価値を与えていけるかの実証実験だった。
 石巻専修大は地元の高校を巻き込み、人材育成のツールとしてPepperを活用する提案をしてきた。全国でも珍しい試みだった。小中学生も参加した。地元愛を育む内容を含め、どこまで教育的、社会的価値を高めていけるか。継続してバックアップしたい。

−石巻専修大はプログラムの中で教員や学生が深く関わって現場を主導した。

尾池氏>
 大学は文化と技術の集積の場所だ。集積した「知」をいかに実学にしていくか、学んだことをいかに社会貢献につなげるかが課題でもある。必要なのは実践の場であり、それが今回の社会貢献プログラムだった。
 ものの見方や世代が違う人と一緒に取り組み、そこにPepperが一人の個人のように存在する。AI(人工知能)の時代、人間がいかにうまくロボットを活用できるかが大切だ。その意味で実践教育としては素晴らしかったと思う。

−プログラムを通し、震災伝承や防災、インバウンド(訪日外国人旅行者)対応など、子どもたちから多様な提案があった。

亀山氏>
 Pepperはさまざまな分野で活躍している。観光、教育、スポーツ、産業振興を含め、市にとって魅力的だった。
 多くの世代が一緒にPepperを使い、プログラミングを通して表現したり、相手に伝えようとしたりした。そういうツールはなかった。社会貢献プログラムの取り組みは裾野が広い。大学が加わることで受け入れのキャパシティーも広がった。教員は地域課題に専門的な立場から助言をし、社会貢献の意識を高めた。それがプログラムの効果であり、成果だろう。

◇ポスト復興

−2020年度は石巻市の復興計画の最終年度になる。ポスト復興で3者の連携はさらに期待が高まる。

亀山氏>
 本市が持続可能なまちとして発展していくためには、人工知能(AI)や5G(第5世代)移動通信システムといった時代の進展に対応していく必要がある。その意味で「学」「産」との連携への期待は大きい。ポスト復興に向けて産学官の連携を深め、時代を切り開かなければならない。連携を強力に進める上でソフトバンクと石巻専修大の存在は大きい。
 少子高齢化で人材の確保は非常に難しくなる。優秀な人材の確保には大学の力が欠かせない。生産性を上げるには企業の考え方、スピードを吸収し、効率のいい行政経営が必要だ。
 ポスト復興の鍵は観光だ。ニーズに合わせた観光を進める必要がある。インバウンド(訪日外国人旅行者)誘致を進めるなら、外国人が日本にどういう関心を持ち、どういう買い物をするか。情報をしっかりつかむ必要がある。人流解析といったICTも活用し進歩していかねばならない。

−石巻専修大は本年度、30周年を迎えた。圏域唯一の高等教育機関として役割をどう果たしていくか。

尾池氏>
 社会が求める教育課程を作ることが肝要だ。重要なのは情報だ。経済をマネジメントするには情報をマネジメントしなければならない。現在、経営学部の中に情報に関する学科を設けることを構想している。情報的、文化的、自然科学的に情報をマネジメントする学科体制、教育体制を強化していく。
 石巻専修大は石巻地域と共生する大学だ。ただ石巻も、東北も人口が減っていく。学生をいかに広く集めるか考えないと大学は生き残れない。そのためにも、地域に根差した課題と世界の課題の両方に対応できる学科にしていきたい。

−ソフトバンクは石巻圏とどう関わり続けるか。

池田氏>
 2020年は通信事業者にとって変革の年だ。5Gの商用化でIoT(モノのインターネット)が本格稼働する。通信会社を超え、さまざまなサービスや機会を提供する会社になっていく変革のタイミングだ。社会貢献プログラムはPepperというロボット単体だったが、IoTのようなより高度な、より広範囲で面白みが増すものを提供していきたい。
 私たちはオールソフトバンクで東北を復興させようと唱えている。石巻、東北はポテンシャルが高い。新しい取り組みを先進的に進める自治体や人材も多い。「震災で石巻は大打撃を受けた」という印象から「最も元気になった東北の都市は石巻」となればメッセージ性は高い。
 世界を見据え、一緒に変化していくパートナーにソフトバンク全体がなれたらうれしい。


(かめやま・ひろし:1942年石巻市生まれ。神奈川大卒。塩釜高教諭、東北大工学部講師、石巻専修大教授、同大開放センター所長などを経て09年の市長選で初当選。現在3期目。)
(おいけ・まもる:1954年生まれ。群馬県伊勢崎市出身。東京工大大学院修了。工学博士。科学技術庁航空宇宙技術研究所などを経て、02年石巻専修大教授。16年から学長。専攻は流体力学。)
(いけだ・まさと:1974年川崎市生まれ。法政大卒。97年東京デジタルホン入社。ソフトバンクCSR統括部統括部長。公益財団法人東日本大震災復興支援財団理事も務める。)


2020年02月15日土曜日


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