伝承のみらい 3.11メモリアルネットワークの挑戦(1) 正念場

新型コロナの影響で伝承活動が制限される中、新たに動画の制作を始めたメモリアルネットワークの会員たち
昨年4月、大型客船寄港で多くの外国人が訪れた石巻市復興まちづくり情報交流館。今年は伝承施設休館や語り部キャンセルにより、伝承活動は全て中断している

 東日本大震災から間もなく10年。あの日の教訓をどう伝え継ぎ、相次ぐ災害からどのように命を守るか。伝承のみらいを探る石巻市拠点の連携組織「3.11メモリアルネットワーク」事務局の中川政治さん、浅利満理子さんにこれまでの歩みと取り組みを報告してもらう。(日曜日掲載)

<コロナ禍の苦境を超えて>

 新型コロナウイルス感染症拡大により、私たちの日常は、震災以来の激変を迎えている。

 「語り部」などの震災伝承の取り組みは震災直後に始まり、熱心に学びに来る方々を昨年は石巻圏で3.5万人も受け入れていた。

 しかし、3.11メモリアルネットワークで新型コロナウイルスの伝承活動への影響を調査したところ、3月までの石巻圏の語り部予約に3千人以上のキャンセルが出ていた。「予約が一件も無い」、「収益の柱であり資金面に困っている」との苦しい声が聞かれる。

 昨年の4、5月には、石巻圏の語り部などのプログラムに約5千人が参加し、震災展示のある施設には約3万人が訪問していたが、今年はほぼゼロになり、活動の継続も危ぶまれている。

 新型コロナウイルスによる影響は宿泊・飲食業などで深刻だが、現在も各地で地震が頻発し、台風などの水害の季節も迫っており、震災伝承や防災の大切さを伝える取り組みは不可欠だ。命を失うリスクを避けるために前もって行動する必要性や、感染症のリスクがある中で避難生活を送る大変さは、あの日々を経験したからこそ全国に発信する力を持っている。

 震災では、家族、親戚、知人のかけがえのない命が失われ、津波に襲われた地域の住まいは壊れ、灰色の泥に覆われた。ただ、その危機的状況においても、避難所で整然と物資を分け合い、地域で支え合う様子は、海外からも日本人の美徳として称賛を受けた。

 新型コロナウイルス対策の緊急事態宣言に対しても「何もかも流されて、水も電気も食べ物も無かったあの時に比べれば」という姿勢で行動ができている。東北の感染者数は全国に比較すると少なく、苦しい時に支え合った経験があるからではないだろうか。

 被災地訪問の呼び掛けは感染症を拡大させかねないため震災活動は苦境にあるが、私たちも経験したことを再確認し、工夫を重ねていかなければならない。

 若者たちがインターネットでの語り部動画配信にチャレンジしている。自分たちの語りを改めて整理し、画面の先の相手へも伝わる内容にするため、試行錯誤が重ねられている。

 また、3.11メモリアルネットワーク基金による新型コロナウイルスの緊急対策助成が開始され、語り部の窮状を救い、継続を支えようとしている。これまで集まった貴重な寄付を取り崩し、総額450万円で5月28日まで応募を受け付けており、15団体程度への助成支援を想定している。

 震災から10年を迎え、感染症の脅威に社会が直面している今こそ、伝承の意義を捉え直す必要がある。次の災害が起きても「全員助かったね」と笑い合える社会が実現できるよう、未来に向けて伝え続けてゆく。


【3.11メモリアルネットワーク】
 2017年11月に「石巻ビジターズ産業ネットワーク 震災伝承部会」が母体となり発足した。石巻圏域を超えて宮城・岩手・福島を中心とする伝承活動の広域連携組織。3県を中心に全国から個人会員473人、登録団体68団体の参画・協力を得て運営されている。所在地は石巻市中央2丁目8−2。連絡先は事務局090(9407)3125。
https://311mn.org/


2020年05月17日日曜日


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