伝承のみらい 3.11メモリアルネットワークの挑戦(5) 目的

3.11メモリアルネットワークが2018年3月に石巻専修大で開いた第1回伝承シンポジウム。広島平和記念資料館元館長の原田浩氏が講演した
震災から2カ月たった石巻市内の避難所。津波当日の密集状態を避けることは難しいが、今後は地域全体で感染症への配慮が求められる=11年5月11日

<原点に立ち、命守れる社会を>

 東日本大震災から10年目、私たちは震災のどんな教訓を、何のために伝えてゆくべきだろうか? 3.11メモリアルネットワークの設立前、石巻圏で活動する方々へその目的を聞き取りしたことがあった。

 「生きたくとも生きられなかった命があったから」、「想(おも)いを多くの人と共有するため」、「震災の悲惨な出来事を未来へ伝え、被害をなくすため」、「普段から考えることで災害後の行動を変える」といった切実な言葉が並んだ。

 当事者が紡ぎ出す言葉だからこそ聞き手が真剣に耳を傾け、施設や展示だけでは伝えきれない共感が生まれる土壌となる。

 震災の教訓として「避難」の伝承は不可欠だ。南海トラフ地震の最大被害想定では、冬の深夜の津波により21都県で13万人が犠牲になるが、「発災後10分で全員避難開始」した場合には、犠牲者は約7万人に減少するとされている。

 冬の夜中に10分で避難を開始できる自信のある人の方が少ないだろうが、この被害想定は「一人の行動変化」が「一つの助かる命」に直結することを明確に示している。

 北海道や東北では日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震も想定される中、体験者による切迫感を持った語り掛けが、この変化を起こすきっかけになるのではないだろうか。

 津波の教訓だけでなく、相次ぐ水害や新型コロナウイルスの感染拡大を受けて「避難者の健康状態の確認」、「発熱・せきなどの症状が出た者のための専用スペースの確保」(厚生労働省)、「避難所に行くことだけが避難ではない」(災害情報学会)などの提言が出されている。

 多くの方々が高台へ避難すれば避難直後の密集状態は避けられず、その後の感染症リスクを想定した避難所の運営や住民同士の支え合いが大切になってくる。

 2011年3月、石巻市では人口の約3割、最大50758人が避難所に集ったとされており、津波当日の密集状態や指定外避難所の活用、安否確認のための避難所回りなど、感染症リスクの高い行動と対策を組み合わせ、リアリティーを持って語れるのは体験者だけだ。

 3.11メモリアルネットワークの第1回伝承シンポジウムで、広島平和記念資料館の元館長から「原点は、被爆の惨状です。被爆の惨状があるからこそ、広島が平和を訴えることができる。狭い意味の平和ではなく、文化も含めた全体として平和事業を推進していきたい」と力強い講演を頂いた。

 戦争と自然災害は異なる面もあるが、広島にも東北にも、多くの人が、命を守るために訪問してくれている。70年以上の年月を経ても継続する平和への願いと取り組みからは、私たちが伝承の目的や意義を考える際にも学ぶことが多い。

 東日本大震災がもたらした痛みや悲しみは、地域全体の記憶として刻み込まれている。それが、私たちの原点だ。私たち一人一人が3.11の教訓を伝承することは、自然災害や感染症への備えに直結している。津波を知らない地域や世代に向けた伝承活動を支えることで、命を守れる社会の実現につなげてゆきたい。
(3.11メモリアルネットワーク事務局 中川政治さん、浅利満理子さん)=日曜日掲載=


【3.11メモリアルネットワーク】
 2017年11月に「石巻ビジターズ産業ネットワーク 震災伝承部会」が母体となり発足した。石巻圏域を超えて宮城・岩手・福島を中心とする伝承活動の広域連携組織。3県を中心に全国から個人会員473人、登録団体70団体の参画・協力を得て運営されている。所在地は石巻市中央2丁目8−2。連絡先は事務局090(9407)3125。
https://311mn.org/


2020年06月14日日曜日


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