<原発・福島のいま>飯舘村の住民困惑「国内有数の景観まで壊すのか」 東北電、首都圏送電計画ルートに

景観の保護を訴える田尾さん。稜線(りょうせん)の手前に400メートル間隔で鉄塔が立ち並び、送電線で結ばれるという=福島県飯舘村佐須

 東北電力が宮城、福島両県に送電線「東北東京間連系線」を新設し、東京電力管内の首都圏への送電能力を倍増させる電力広域的運営推進機関(東京)の計画を巡り、送電線ルートになった福島県飯舘村の住民から「国内有数の景観が損なわれる」と戸惑いの声が出ている。東北電は急きょルートの再検討に着手したが、費用面などの問題もあって着地点が見えていない。(福島総局・斉藤隼人)

 「驚いた。これだけ原発事故で被害を受けて帰還も進んでいない村に、また東京のための設備。残された貴重な資源である景観さえも壊すのか」
 村北部の玄関口、佐須地区で田尾陽一さん(78)が語気を強めた。視線の先に田園や牧草地帯、集落が広がる。村は「日本で最も美しい村」連合に加盟し、景観を売りに地域発展を目指す。
 東京都民だった田尾さんは東電福島第1原発事故直後から村に入り、村内外の仲間とNPO「ふくしま再生の会」を結成。昨夏に移り住み、農家民泊など地域交流事業を本格化させようとした矢先、拠点の目の前を高さ80メートルの鉄塔や送電線が横切ると知った。
 村は一部を除き2017年3月に避難指示が解除されたが、居住者数は住民登録の約2割にとどまる。「産業を復活させるには長い時間がかかるため、景観を生かした地域の将来像を描いていた。原発事故からの再生を目指す村にどれほど打撃を与えるだろう」。田尾さんはため息をつく。
 懸念は地域に広がりつつある。隣接する前田地区の佐藤健太村議(37)は「集落の真ん中を送電線が通れば住民帰還を妨げかねず、村にはメリットがほとんどない」と指摘。「できた後に『何だこれは』では遅く、今真剣に考える必要がある。計画自体に反対なのではない。もう少し配慮してほしいだけだ」と訴えた。
 両県を通る全長158キロのルートは図の通り。東北電が市街地や国定公園、険しい山間地などを避けて設計した。昨年、村民向け説明会を3度実施。住民要望を受け今年3、4月にも説明の場を設けた。
 同社は昨年9月の北海道地震で全域停電(ブラックアウト)が起きたことを念頭に置き、安定した電力供給の意義を強調。5月にルート変更も含めて再調査を始めたが、費用が膨らむ懸念が強く先行きは不透明だ。
 同社広域連系線福島立地事務所の遠藤淳所長は「大幅なルート変更は難しい」とした上で「調整できるかどうか技術的観点で調査している。なるべく早く結果をまとめ、住民の理解を頂きたい」と述べた。
 同社は22年の着工に向け、本年度は土質調査などを進める予定。
 景観トラブルに詳しい高崎経済大の谷口聡教授(民法)は「景観は歴史・文化的に価値が認められる」と指摘。「巨大な送電線は大勢の人に利益をもたらす側面もあるが、村民の精神的苦痛が大きいことを電力会社は認識すべきだ」と語る。

[東北東京間連系線]東北−東京間に50万ボルト送電線や鉄塔を新設し、東北から首都圏に送電する場合の運用容量を現行から倍増の1028万キロワットに拡大する。電力取引の活性化や再生可能エネルギーの利用促進などが狙い。2027年の完成を目指す。工事費は1530億円。国主導で進められ、事業は全国の電力需給を調整する電力広域的運営推進機関(東京)が計画し、東北エリアは東北電力が事業実施主体となる。


2019年06月21日金曜日


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