第10部・津波火災(上)リスク/勢い増す炎、校舎に接近

中野小の近くでは4件の津波火災が発生し、校舎に延焼する危険性があった(イラスト・栗城みちの)
津波火災に襲われた門脇小は校舎が黒く焼け焦げ、燃えた大量のがれきに覆われた=2011年3月14日

 日本火災学会によると、東日本大震災の津波到達後、東北を中心に少なくとも159件の津波火災が起き、市街地の約74ヘクタールが焼失した。がれきや自動車、流出した重油が燃え、火の手は避難先の建物を襲った。津波火災の脅威を振り返り、教訓と備えを考える。(いのちと地域を守る取材班)

◎避難住民、脱出策探る

 崩れた家屋の山が真っ赤に染まりだした。炎は次第に勢いを増す。巨大津波に襲われて孤立した2階建ての校舎で、約600人の避難者は身を震わせた。
 海岸線から程近い仙台市宮城野区の中野小。震災が起きた日、学校には多くの児童や住民が集まった。津波は家々を流し、校舎の入り口は車や建材でふさがれた。
 住民の避難を誘導した蒲生町内会役員の鈴木均さん(65)は地震発生から数時間後、校舎2階の教室にいた。居住地区ごとに割り振った教室は住民であふれた。皆、寒さや眠気に耐えていた。
 午後8時すぎ、学校の西300メートルほどの闇から火が見えた。「炎は崩れた家屋のすき間からわずかに確認できた程度だったが、西風を受けて徐々に勢いを増した」。車両やガスボンベに引火する音が響き渡った。

 鈴木さんは度々、校舎西側の家庭科室から外の様子を確認した。暗がりに浮かぶ炎が、近くに見えた。「深夜の火災で距離感がつかめず怖かった」と振り返る。
 市消防局によると、2011年3月11日、学区内で発生した津波火災は4件=地図=。校舎西側で起きた3件の火災は、最終的に100台以上の車や建物約20棟を焼き尽くした。
 校舎のすぐ西隣には、灯油やガスボンベが備蓄されていた。長年PTA役員を務めた下山正行さん(45)は「火が迫ったら引火する。逃げる方法を考えないといけない」と危機感を抱いた。

 学校の1階部分は、建材や家具が背丈ほどに積み重なり、行く手を阻んでいる。避難住民の大半は児童やお年寄りのため、そのままでは全員の脱出は難しい。居合わせた作業着姿の男性たちの力を借り、手作業でがれきをどかし、1時間ほどで大人1人が通れるほどの避難路を開通させた。
 避難路を確保した深夜、市消防局のヘリによる空中消火が本格化した。火勢は徐々に収まり、自衛隊ヘリによる病人の救助も始まった。
 学校の約200メートル手前で、火災が落ち着いたのは、12日朝を迎えてからだった。校舎の周囲には、津波で打ち寄せられた家屋やがれきが重なっていた。住民たちは助かったが、延焼の危険と隣り合わせだった。

◎頑丈な建物にも火/着のがれきから延焼

 東日本大震災の津波火災では、仙台市宮城野区の中野小のように、多くの津波避難ビルが猛火にさらされた。専門家は堅固なビルにはらむ危険を指摘する。
 日本火災学会の調査によると、震災で起きた津波火災159件のうち、建物火災は59件。構造と材質が把握できた34件の内訳では、鉄筋や鉄骨の非木造が23件で、木造11件の2倍に達した。
 火災現場に入って調査した名古屋大減災連携研究センターの広井悠准教授(都市防災)は、鉄筋や鉄骨の建物火災の特徴について「津波に耐えた建物にせき止められた住宅や自動車が、何らかの原因で引火して燃え移った」と分析する。

 津波火災の発生パターンを象徴する現場の一つが、津波を真正面から受ける立地条件にあった石巻市門脇小だった。震災の発生直後、同校の近くで機械器具製造会社を経営する阿部清さん(64)は、津波に追われるように校舎に駆け込み、3階建ての屋上に上がった。
 「ボン」「ボン」。大きな音が響き、身を乗り出して下を見た。校舎前の2カ所で何かが燃え始め、津波で校舎に打ち寄せられた車が次々と爆発していた。火柱が目の前まで噴き上がった。
 住民約50人は2階の窓から、ひさしに脱出。さらに校舎裏の日和山の斜面に教壇を渡して逃げた。後日、同校を訪れると、何台も積み重なった車とともに、校舎が黒焦げになっていた。「建物にいたら危なかった」

 津波火災の出火原因は学会の調査でも解明し切れていない。何らかの理由で生じた火花が、車から漏出して気化したガソリンやプロパンガスなどの可燃性ガスに引火した可能性が高い。気仙沼湾では海上に漂った重油が燃え、火の海となった。
 仙台市消防局の実証実験では、海水に浸った車の電気配線部から出火している。車も火種の一つと言えそうだ。
 津波火災の危険は、近くに重油タンクが設置されている場所に限らない。大量のプロパンガスボンベや車がある市街地にも潜む。
 広井准教授は「津波火災の心配よりも、まずは安全に高台に避難することが重要だ」と指摘。その上で、津波火災のリスクを抱える場所にある津波避難ビルについて(1)地盤をかさ上げして津波時の可燃物の接近を防ぐ(2)建物の背後の高台や別棟に2次避難先を用意する(3)建物自体の耐火性を向上させる−などの対策を求める。

[英訳] https://www.kahoku.co.jp/special/spe1151/20150309_10.html


2014年07月11日金曜日


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