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<仙台いやすこ歩き>(112)アップルパイ/人気の品種で心も温か

 ふと、画伯がつぶやいた。
 「この季節、なんか、アップルパイが恋しくなるのよね」。そう聞いた途端、脳裏に浮かんだのは、アップルパイがテーブルに並ぶ温かい風景。
 やっぱり、行くしかないでしょう。と、2人がやってきたのは、仙台市宮城野区東仙台にある「ガトーめぐろ」である。迎えてくれたのは、会長で、オーナーパティシエの目黒栄治さん(71)で、「秋になると、昔からアップルパイを焼いてきました」と話してくれる。
 目黒さんは仙南の生まれで、お父さんは和菓子店を営んでいたそう。これからは洋菓子の時代と、東京・六本木のクローバーでの修業から洋菓子作りの道が始まる。50年前の話だ。この店を開いたのは43年前。目黒さんは、今でも早朝一番に厨房(ちゅうぼう)に立ち、息子さんや若い人たちとともに洋菓子作りにいそしむ。
 全て手作りという洋菓子の種類は25〜30種くらいで「オープン前にショーケースに並んだのを見るのが幸せです」と話す。その中で一番好きなのが、なんとアップルパイだそうだ。
 アップルパイといえばリンゴだが、以前使っていたのは紅玉だけで、福島県産から青森県産まで、それぞれの収穫時期の北上に合わせて仕入れていた。今は、宮城県生まれのサワールージュがある期間は、この新品種を使っているのだそう。「これが、正直、合うんです」と笑顔をほころばせる。
 一つ、難があった。宮城県産のサワールージュだけとなると、作れる期間が短いこと。そのため、同県農業試験場では10月に収穫したサワールージュを冷蔵保存して、できるだけ長く鮮度を保たせられるように取り組んでいる。保存技術の向上のおかげで、採れたてと比べて遜色ないという。
 サワールージュを使ったケーキは3種類で、一番人気はアップルパイ。「終了してからも、サワールージュのアップルパイ、ある?」と聞かれることがあるそう。
 聞いているうちに、いやすこ心は満帆だ。それが見抜かれたかのように、目の前のテーブルにアップルパイが運ばれる! 「ガバっていって」という目黒さんのひと言に、ガブリ。しっかりとした甘酸っぱさ。そして台のパイとのハーモニーを、このガブリが一層おいしく伝えてくれる。パイってこう食べるのが一番と、改めて実感する。
 次にショーソンポムも振る舞われ、サクサクのパイ皮に包まれたサワールージュをこちらも「おいしいおいしい」と、2人唱和しながら堪能した。
 案内していただいた厨房では、若い職人さんたちが一つ一つ丁寧に手先を動かしている姿に、やっぱりアップルパイは温かい心が作り出すものと思わずにはいられない。
 帰る道すがら「ねぇ、私たち短時間にケーキ2個ぺろりだったね」「胸やけなんかしないのも、材料がいいからなんだね」とおしゃべり。「今日の夕食もアップルパイでいいな」とポツリ、さすが画伯だ。
 ※サワールージュのアップルパイは人気のため今季終了。現在は紅玉のアップルパイが販売されている。

◎英国が発祥各地に広がる

 アップルパイとは、リンゴを甘く煮て、詰めてオーブンで焼いたパイのこと。 ホール形やスクエア形、一人で食べられる形など、国により形状や味がさまざまである。パイもサクサクとした折りパイやバターをたっぷり練り込んだ練りパイがあり、さらに、タルトを台とした有名なフランス菓子であるタルトタタンも、アップルパイの一種とされている。
 アップルパイの歴史は、英国がその発祥といわれ、最も古いレシピは14世紀のリチャード2世の料理人によるレシピ本に記されている。
 やがてヨーロッパ各地に広がり、米国には17世紀、英国からやってきた清教徒が、食用に適したリンゴの栽培とともにアップルパイを伝え、米国人のおふくろの味と言われるまでになった。
 ちなみに、サワールージュは、宮城県農業・園芸総合研究所で育成され、2011年に品種登録された同県オリジナルのリンゴ品種で、酸味が強いのが特徴である。

 土地には、その土地ならではの食があります。自他共に認める「いやすこ(仙台弁で食いしん坊のこと)」コンビ、仙台市在住のコピーライター(愛称「みい」)とイラストレーター(愛称「画伯」)が、仙台の食を求めて東へ、西へ。歩いて出合ったおいしい話をお届けします。


2020年01月20日月曜日


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