うたの泉(1431)つはぶきの黄色(くわうしょく)ぬばたまの夜にして 土に低くし湧きし花びら/森岡貞香(もりおか・さだか)(1916〜2009年)12月13日
「つはぶき」の花。風景から色が失われ始める初冬の街の中、小さな黄色は目に残りやすく。掲出歌は「ぬばたまの夜」と対比させることにより、色彩をいっそう際立たせています。結句「湧きし」の動詞の選択…
うたの泉(1430)犬は犬のさみしさ負ふか冬雲の 擦れ違ひざまじつと見てをり/伝田幸子(でんだ・さちこ)(1941年〜)12月12日
うたの泉(1429)物語の続きのやうな妻の絵の 「雪の降る町」雪橇がゆく/窪田雅夫(くぼた・まさお)(1935年〜)12月11日
うたの泉(1428)かぼちゃ煮てセーター編んだと詠むような 人生だってあったはずだが/佐藤涼子(さとう・りょうこ)(生年非公表)12月10日
うたの泉(1427)子の部屋の裸のベッドに腰掛けて 半月はあかるいはうの月/小林真代(こばやし・まさよ)(1972年〜)12月9日
うたの泉(1426)アメリカで聴くジョン・レノン海のごとし 民族はさびしい船である/小島ゆかり(こじま・ゆかり)(1956年〜)12月8日
うたの泉(1425)歴史修正主義者の愚論聞き 飽きてドリンクバーのまずき珈琲/藤原龍一郎(ふじわら・りゅういちろう)(1952年〜)12月6日
うたの泉(1424)母さんがいちばん好きと子にいはせ 暗い灯りの下に抱きぬ/石牟礼道子(いしむれ・みちこ)(1927〜2018年)12月5日
うたの泉(1423)冬力(ふゆぢから)根性のやうに燃えてゐる 猩々木(しやうじやうぼく)を運び来る人/馬場あき子(ばば・あきこ)(1928年〜)12月4日
うたの泉(1422)なおわれはひとを求めてこの冬の 井戸の深さを身ではかりたし/後藤由紀恵(ごとう・ゆきえ)(1975年〜)12月3日
うたの泉(1421)身体に心こころにからだ粛々と 大根を煮る武道のように/北山あさひ(きたやま・あさひ)(1983年〜)12月2日
うたの泉(1420)北国の花のすくなき冬のため 絵つきろうそく売られていたり/岡本幸緒(おかもと・ゆきお)(生年非公表)12月1日
うたの泉(1419)関門の海に小雪のちらつけば 河豚が恋しも毒もつ河豚が/石田比呂志(いしだ・ひろし)(1930〜2011年)11月29日
うたの泉(1418)ぼくも非正規きみも非正規秋がきて 牛丼屋にて牛丼食べる/萩原慎一郎(はぎわら・しんいちろう)(1984〜2017年)11月28日
うたの泉(1417)ITでつかふ言語が分からない 分かつてゐるひと ああ手をあげて/池田はるみ(いけだ・はるみ)(1948年〜)11月27日
うたの泉(1416)アラビアの文字美しく彫られたる 石鹸ごろりと風呂場にありて/前田康子(まえだ・やすこ)(1966年〜)11月26日
うたの泉(1415)分厚なる黒餡つつむ饅頭に まされる味は世にはあらじと/河上肇(かわかみ・はじめ)(1879〜1946年)11月25日
うたの泉(1414)チェロを弾く宮沢賢治フクロウの 羽ばたくごとし樫の木の下/谷岡亜紀(たにおか・あき)(1959年〜)11月24日
うたの泉(1413)夕の冷え言ふ人をりてほそほそと ストーヴ点けぬ黄の火の種を/高木佳子(たかぎ・よしこ)(1972年〜)11月22日
うたの泉(1412)使いなれた皿を食事で/あたらしく知るように/ことばに/会いたい/小林久美子(こばやし・くみこ)(1962年〜)11月21日
うたの泉(1411)音信(おとづれ)を待つときめきのこよなくて ポストをのぞく朝より三たび/山本かね子(やまもと・かねこ)(1926〜2020年)11月20日
うたの泉(1410)ひとりにて育てあげんと知らぬまに 気負いたり子は花のごと泣く/石川浩子(いしかわ・ひろこ)(1960年〜)11月19日
うたの泉(1409)秋の風佐藤春夫が恋人を 刺さん手だてを思ふゆふぐれ/堀口大学(ほりぐち・だいがく)(1892〜1981年)11月18日
うたの泉(1408)すぐき漬くる漬物樽の鉄箍に 茶色き錆のうきいるが見ゆ/永田淳(ながた・じゅん)(1973年〜)11月17日
うたの泉(1407)いきものを育てていると思いおり が いつのまにか人間である/富田睦子(とみた・むつこ)(1973年〜)11月15日
うたの泉(1406)自転車のカゴというのはことのほか あの世この世の枯れ葉が入る/大橋弘(おおはし・ひろし)(1966年〜)11月14日