<東北の本棚>内面引き出す土地言葉

◎東北おんば訳石川啄木のうた 新井高子 編著

 盛岡市出身の歌人石川啄木(1886〜1912年)の短歌を、岩手県沿岸南部の方言「ケセン語」で詠んだ意欲作だ。詩人の著者が大船渡市に暮らす年配の女性「おんば」たちと100首を地元の話し言葉に訳した。
 東日本大震災後、被災者を支援しようと2014年から大船渡で行われた取り組み。仮設住宅の集会室に著者とおんばたちが集まり、2年かけて練り上げた。
 啄木の代表作の一つ「ふるさとの訛(なまり)なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく」。これは「ふるさどの訛ァ懐(なづ)がすなぁ 停車場(てーさば)の人(ひど)だがりン中(なが)さ 聴ぎさいぐべぇ」に生まれ変わった。日々の暮らしを率直につづった啄木の歌がおんばたちの手に掛かると、より人間くささやユーモアが出てくるから面白い。独特の濁音や語尾からはぬくもりも感じられる。
 「大海(おみ)さ向がってたった1人(しとり)で 七(しぢ)、八日(はぢんち) 泣ぐべど思って家(えぇ)ば出てきたぁ(大海にむかひて一人 七八日 泣きなむとすと家を出でにき)」
 「頬(ほ)っぺださつだった なみだァ拭(のご)わねァで 一掴(ひとづが)みの砂っこ翳(かざ)した人(ひど)ァ忘(わ)っせらィねァ(頬につたふ なみだのごはず 一握の砂を示しし人を忘れず)」
 震災で大きな被害を受けた町だからか、海にまつわる歌からは悲しみがにじむ。おんばたちはあくまで啄木の作品として訳しているに過ぎないが、日常の言葉で語ることで彼女たちの心の内が図らずも浮かび上がってくるのだ。著者は「土地言葉は、一人一人の言葉かもしれない」とかみしめる。
 本書にはQRコードが印刷されており、携帯からおんばによる短歌の朗読を聴くことができる。聴く人を温かく包み込むケセン語が心地よい。著者は1966年群馬県生まれ。埼玉大准教授。
 未来社03(3814)5521=1944円。


2018年03月25日日曜日


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