<東北の本棚>時代の空気閉じ込める

◎ベートーヴェンを聴けば世界史がわかる 片山杜秀 著

 「歌は世につれ 世は歌につれ」という観点から、クラシック音楽と作品が生まれた社会状況の関わりを浮き彫りにした。クラシック音楽を「時代の空気を閉じ込めた一級の史料」と位置付け、偉大な作曲家の作品や生涯を深く解釈することで、時代の流れが分かる工夫が凝らされている。
 著者はクラシック音楽の主な受け取り手は、教会から王侯貴族、大都市の市民層などへと変遷し、それが音楽にダイレクトに反映していると指摘。大勢の人が携わるクラシック音楽は、時代のニーズに呼応しないと成り立たない芸術であることが背景にあったという。
 神の下での秩序を求め、対位法と呼ばれる手法を駆使したバッハ(1685〜1750年)の精緻な音楽は、人間中心主義の世にあっては時流から浮いていたと分析する。モーツァルト(1756〜91年)が活動した時代は、宮廷の衰退期ながら、市民層も力を持ち得なかった時期。天才でも就職難に直面したことなどを紹介している。
 ベートーベン(1770〜1827年)の音楽は、市民階級が台頭してきた時代の中で、市民を熱狂させる(1)分かりやすさ(2)うるささ(3)新しさ−を兼ね備えていたと分析。ワーグナー(1813〜83年)については、ナショナリズムの機運の高まりと音楽性が見事にリンクし、時代を先導したとみている。近代社会の超人志向が、マーラー(1860〜1911年)の音楽にも反映されている点にも言及している。
 著者は1963年仙台市生まれ。慶応大法学部教授で思想史研究者。音楽評論家でもある。「音盤考現学」と「音盤博物誌」で吉田秀和賞とサントリー学芸賞を受賞。
 文芸春秋03(3265)1211=864円。


2019年01月20日日曜日


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