<東北の本棚>有機農業で地域づくり

自分史 いのちの磁場に生きる 星寛治 著

 山形県高畠町で有機農業を実践し、農民詩人の真壁仁に師事した星寛治さん(83)の自伝。国内でも先駆的な有機農業の記録であるとともに、「まほろばの里」に結実した新しい農村社会づくりの文化論として示唆に富む。
 26歳のとき、十二指腸潰瘍で生死をさまよう。退院後の弱った体で農薬を散布すると、何日も寝込んだ。「無農薬で農業ができないか」。挑戦の始まりだった。
 若者が都会へ流出し、農村の疲弊が目立った時代に、青年団の仲間と真の豊かさや農の原点を話し合い、地域の自立を模索した。「高畠の有機農業運動の始まりは、無機質になっていく人間と自然の関係性を取り戻し、農家としてより良く生き抜くことを選んだ抵抗運動だった」
 10年育てたリンゴが病気で全滅した。ショックで2日間寝込む中、思い至ったのが健康な土づくりからの再出発だ。1973年に有機農業研究会を設立。失敗の連続だったが、3年目、効果が表れた。冷害で白茶けた田が広がる中、会員の水田の穂は黄金色に実ったのだ。「複合汚染」の作家有吉佐和子さんも取材に訪れた。
 真壁が主宰した「地下水」の同人で、詩作やエッセーなどの執筆を「内面の土壌を耕す営み」として楽しんだ。
 <野の復権のむこうにのみ かすかに人間の時代がみえる>(野の復権)
 親交ある栗原彬立教大名誉教授の寄贈図書をもとに「たかはた文庫」設立をけん引するなど、地域の文化向上に努めた。
 福島県飯舘村にも知己がいる。同じ農家として、東京電力福島第1原発事故で耕土を汚染された村民の悔しさが分かる。それだけに、文明の転換を訴える筆に力がこもる。
 星さんは斎藤茂吉文化賞(2011年度)、河北文化賞(17年度)受賞。著書に「農から明日を読む」、詩集「種を播(ま)く人」などがある。
 清水弘文堂書房03(3770)1922=3780円。


2019年09月01日日曜日


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