<東北の本棚>新しい命の重み込める

鳥影 花山多佳子 著

 河北歌壇選者の第11歌集。前歌集「晴れ・風あり」(2016年)に入れなかった10、11年の作品や12〜15年の作品、計468首を収録した。作者は東京都出身で、「塔短歌会」選者も務める。暮らしている千葉県柏市の団地周辺は鳥が多いといい、表題は<はらはらと飛び立ちゆける鳥影をいくたび見しや冬の散歩に>にちなむ。
 今歌集では表題歌を含め、「影」という言葉を用いた作品が印象的だ。<白い影が近づきてわが身体を通過したりアッと叫んで目覚む>。東日本大震災の発生直後、地域の放射線量の高さを懸念する作者の夢に、えたいの知れない「白い影」が現れた。これとは対照的に<をさなごは歩き始めぬ乾きたる土のおもてに影を落として>の「影」には新しい命の重みを込め、日々成長する孫の姿を生き生きと描く。
 あとがきで「12年に孫が生まれて日常にかなりの変化をもたらした。変化とともに、時代が急速に流れたような気がする」と振り返りながら「読み返すと歌はのどかだ。ふしぎである」と述べる作者。<秋深し零余子(むかご)の蔓は石垣に罅かとおもふ影を置きたり><蝶のごとき影をおとして眼鏡あり朝のひかりの畳の上に>と、さまざまな身の回りの「影」をユーモラスに表現する。
 一方で、家族との暮らしで<をさな子と手をつなぎゆく寒き夜の川べりの道に人影を見ず><干し物を持ちて来たれる屋上に三人だけの濃き影おとす>と、人の存在を示す叙情的な「影」も感じ取る。
 作者は歌集を通して<震災後一年半が過ぎて今、東京駅はなぜにかがやく><幼子がどんぐり拾へばこのあたり線量高かりしこと思ひ出す>と震災の影響を詠み続ける。被災地東北と、子孫の未来を思う気持ちの表れだろう。
 KADOKAWA(0570)002301=2808円。


2019年09月15日日曜日


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