<東北の本棚>日常を奪った戦争問う

テニアン 太平洋から日本を見つめ続ける島 吉永直登 著

 米自治領・北マリアナ諸島のテニアン島は、太平洋戦争末期までの約30年にわたって日本の統治下にあった。サイパン島の隣に浮かぶ小さな島は米軍に占領された後、広島と長崎に原子爆弾を落としたB29爆撃機の出撃基地になったことで知られる。しかし、戦後74年が過ぎて軍民合わせて1万数千人もの日本人が米軍との戦闘の末に死亡した事実は風化しつつある。著者は沖縄、福島、山形など各県からの移住者によるサトウキビ生産でにぎわっていた日常を丹念に再現し、戦争の非情さに迫った。
 熱帯の異国で農業を営む厳しさの中にも和やかさがあった日々の残像と、悲惨な戦争が交錯する様子を印象的に描いた場面が本書の終盤にある。
 1944年8月、日本軍の組織的戦闘が終わった。テニアンの米軍が投降を呼び掛ける放送で多く流した音楽が日本の唱歌「美しき天然」だった。少し哀愁を帯びたこの曲は、チンドン屋のメロディーとして知られる。どうやって米軍はレコードを手に入れたのか。ヒントは、本書による戦闘発生前の島の様子にある。
 時計店や菓子店などがあった島の商店街スズラン通りでは映画館「地球劇場」が営業していた。「吉川デブ」と名乗る経営者がチンドン屋のような格好をして宣伝していたという。著者は、チンドン屋の音楽が集団自決もあった洞窟やジャングルに向けて流された様子を「想像しただけでも異様な光景だ」と記す。
 福島県出身の元住民らの取材のほか、山形県出身の元島民が残した記録などをつなぎ、日本人による開拓から戦争終結までの島の全体像を明らかにした。大航海時代前後の歴史を紹介し、先住民族の苦難にも触れた労作だ。
 著者は63年生まれ、千葉県出身。NHKを経て91年に共同通信社に入り、阪神大震災などを取材した。
 あけび書房03(3234)2571=1944円。


2019年09月29日日曜日


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