<東北の本棚>人や街との縁 名作生む

太宰治と仙台 須永誠 著

 太宰治文学の終戦前後のキーワードは「仙台」だった−。本書のうたい文句にあるように、太宰治と仙台は深いつながりがあった。
 太宰は、河北新報や文芸誌「東北文学」などに「パンドラの匣(はこ)」や「たずねびと」「女賊」(「新釈諸国噺(ばなし)」)を発表。「お伽草紙(とぎぞうし)」の最終話「舌切雀(したきりすずめ)」も、仙台を舞台としている。中国の文豪・魯迅の仙台医学専門学校留学時代を描いた「惜別」の取材では、河北新報社に3日間にわたってこもり、明治時代の河北新報を読み込んだ。この時に取った「惜別メモ」は、太宰の創作手法や感性に触れられる貴重な資料となっている。
 終戦前後の名作の幾つかは、仙台とのつながりがなければ生まれなかったに違いない。本書は、仙台の人々や街と創作の「接点」を、多角的に解き明かしていく。仙台出身・ゆかりの弟子たちへの、太宰の尽きせぬ思いも紹介している。
 「惜別メモ」と明治時代の河北新報をここまで厳密に照らし合わせる試みは、おそらく初めだ。メモの全容、狙いが明らかにされる。太宰との触れ合いを通して弟子たちの内面に切り込む手法は新鮮で、興味を引く。第一線の研究者へのインタビューも示唆に富む。
 全編にちりばめたコラムやエピソードは、人情に厚く、家庭を大切にした太宰の意外な素顔を浮かび上がらせる。「仙台」を切り口に、新たな視点から人間・太宰治と、太宰文学の真価に迫ったと言えよう。
 巻末には「惜別メモ」や、創作の苦しみを吐露した仙台の友人への書簡など、太宰の珍しい「直筆」資料を収めた。特に、公開される機会がほとんどないとみられる書簡に触れられるのは、ファンにとって大きな喜びだろう。
 著者は1956年群馬県高崎市生まれ、仙台市在住。元河北新報記者。
 河北新報出版センター022(214)3811=1540円。


2019年10月27日日曜日


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