<東北の道しるべ>異業種の「共創」活力に 鶴岡・フォーラム詳報

「『共創産業』を興そう」をテーマに語り合ったフォーラム
パネル討論の登壇者に拍手を送る聴講者
<みなかわ おさむ>74年、鶴岡市生まれ。宇都宮大卒。97年、農林水産省入り。農林水産副大臣秘書官、食料産業局企画課課長補佐などを歴任。東北公益文科大特任講師を経て、17年10月の市長選に初当選し、1期目。

 戦後日本に価値観の転換を迫った東日本大震災を踏まえ、次世代に引き継ぎたい東北像を探るフォーラム「東北の道しるべin山形」(河北新報社主催)が11月25日、鶴岡市の東京第一ホテル鶴岡であった。河北新報社が創刊120年を記念し、昨年1月に発表した「東北の道しるべ」のうち「『共創産業』を興そう」をテーマに意見を交わした。

◎パネル討論

◇パネリスト
 ヤマガタデザイン(鶴岡市)社長 山中大介氏
 酒田光陵高(酒田市)ビジネス流通科長 梅津吉絵氏
 ブルーファーム(大崎市)社長 早坂正年氏
◇コーディネーター
 河北新報社報道部長 冨樫茂 

<活動>
 −それぞれの事業を紹介してほしい。

 山中 首都圏から縁もない鶴岡に家族と移住し、2014年に街づくり会社「ヤマガタデザイン」を創業した。資本金は地元企業から調達し、入社条件は庄内地域に住民票を持つ人に限るなど地域密着を貫いた。庄内をブランディングし、次世代につなげる魅力ある街づくりを進めたい。

 梅津 生徒にビジネスの在り方を教えている。起業から商品の企画、開発、販売などビジネス全体を完結するツールとして、一般社団法人「SKIES(スカイズ)」を今年2月に設立した。社員は生徒だ。法人で利潤を得ると、それが次の商品開発につなげる資金になる。ビジネスを通して地元に貢献できる人材の育成を目指している。

 早坂 八百屋とデザイン事務所を融合した「ブルーファーム」という会社を大崎市で運営している。東日本大震災後、会社を辞め、妻の実家がある大崎市で稲作を始めた。1次産業の現状を間近に見て、もっと盛り上げるには1次産業にデザインを融合させることが必要と考えた。

 −活動はどう展開しているか。

 梅津 地域福祉の実態を学ぶ授業で、通所施設などで働く障害者の月給がほんのわずかで衝撃を受けた。生徒も障害者を支えたいが、商品開発などの資金はない。ただ、企業に頼るだけでは一過性で終わる。ビジネスは起業し、資金を集め、利潤も得て、納税して地域に貢献すること。そこを大事にしたい。

 早坂 大崎市の農家と鳴子温泉の旅館が連携し、湯治客に地元の里山料理を振る舞う「農(のう)ドブル」を始めた。農業だけでなく、林業も漁業も一緒に地域の価値をつくる。器も地場の木材で製作し、郷土料理をフルコースで売り込んだ。今年7月に始めて評判は上々。外国人観光客にも来てもらえる魅力あるサービスだと自負している。

 山中 鶴岡では慶大先端生命科学研究所をはじめ、若い人たちがベンチャー事業に取り組んでいて可能性を感じた。ヤマガタデザインの存在価値は、地域課題をクリエーティブにデザインして解決することにある。会社を興した時の資本金は10万円だったが、市内にホテル「スイデンテラス」を造るに当たり、建築家の坂茂さんに設計をお願いしたら、地方創生の観点から引き受けてくれた。地域の未来に危機感を持って行動している庄内の企業は多く、応援してもらっている。

<阻む壁>

 −共創産業の進展を阻む壁は何か。

 早坂 包装のデザインを手掛ける報酬として、依頼された商品を受け取る物々交換ビジネス「B2B2(ぶつぶつ)」も展開している。パッケージなどをデザインしたコメを、自分で売っている。1次産業に従事して分かったが、農家は事業ではなく家業。商品開発に投資するという考えがない。ぶつぶつによって家業から事業に変えたいと、農家をたきつけている。林業、農業、漁業といった1次産業の従事者が生産したものに誇りを持てるようなサービスを提供したい。

 山中 農業分野にも進出するが、周囲から「やめた方がいい」と言われている。もうからないという先入観からだが、自分はもうかると思っている。スイデンテラスの安定的な経常運営には1〜2年はかかる。その間、どういう新たなチャレンジができるかが問われている。それがスイデンテラスを絡めた農泊だ。周辺の数十ヘクタールの土地で農業を体験させ、交流人口を増やす事業に取り組む会社は他にない。こういった取り組みを進めることで、庄内は全国の中でもきらりと光る地域になるはずだ。

 梅津 教員はいつ転勤するか分からない不安定な立場にある。だからこそ、事業を継続させるためにスカイズをつくった。理想は地域の企業やコミュニティーと学校がつながること。生徒は卒業しても協力してくれる。だが学校現場で利潤を得ることに抵抗感を示す校内の声もある。ビジネスは利益を得て、次につないでいくことが大事。倒産はダメ。つながっていくことで地域に貢献したい。生徒には「自分が成し遂げる」「自分で解決する」ことの大切さを伝えている。自分と全体を俯瞰(ふかん)的に見渡せる人材を育てることが大事だと思う。

<未来像>

 −共創産業の未来像を描くため、若い人材の確保と育成をどう進めるべきか。

 早坂 海外では、自分のローカルを話せると一気に相手との距離が縮まる。例えば、大崎にはしそ巻きがあり、「シソ」ってジャパニーズハーブなんだよ。それにみそをまいたのがしそ巻きで、ご飯にめちゃくちゃ合う。日本でしそ巻きを食べないで帰るなんてもったいないと伝える。そうすると、相手と打ち解けて母親の手料理の話になる。
 「謙虚」と「謙遜」という似た言葉がある。謙虚な姿勢は良い。しかし、自分をさげすんで相手を立てる謙遜は世界で通用しない。地域づくりでも1次産業でも、自分たちの地域に誇りを持って発信するのが大事だと思う。

 梅津 目指しているのは、地元の困り事を知って、それを解決できそうなノウハウを持った人や会社とつなぐことだ。
 具体的な進路の目標を持って高校に入学する生徒はほとんどいない。ノウハウを持っている方と触れ合うことで、「自分はこの道」という目標になっていく。そういった場で生徒たちがビジネスをできれば良いと思っている。公益をスタートに据えて、末永く地元に生かせる形のビジネスを特色にしたい。

 山中 親が子どもに「東京に出て戻って来なくていいわよ」と話している地域で、崇高な人がいかに「地元は素晴らしい」と強調したところで、子どもたちは「絶対そんなのうそでしょ」となってしまう。
 私たち大人が自分たちの地域に一番わくわくして「この地域面白いよ。いつか戻って来たら」と子どもに言えることが大事。子どもたちに一度世界中を見てもらって、それでも選ばれる庄内や東北を目指すべきだ。

◎基調講演「共に興す鶴岡の産業・東北の未来」鶴岡市長・皆川治氏/身近な「宝」を育てよう

 私は鶴岡、そして東北の未来を悲観していない。大いに可能性があると考えている。
 妻が石巻市出身で、妻の父が東日本大震災の前日に他界した。当時、農林水産省に勤めていたが、葬儀に出席するため石巻にいた。
 石巻市役所に55日滞在して支援に携わった。農水省で17年仕事をしてきたが、震災を経験して現場で実行する人がいないと駄目だと強く感じ、Uターンした。
 鶴岡市でどのような産業や未来をつくっていくべきかと考えた時、三つの産業が鍵になる。
 一つ目は農業。温海地域ではカブ栽培が盛んで、焼き畑の原始的な農法が今も受け継がれている。特産のだだちゃ豆は、種を選別して改良することが脈々と受け継がれてきた。
 鶴岡が強いのは稲作、メロン、だだちゃ豆。しかし、ミニトマト、アスパラガスなど園芸作物の振興で農業産出額を伸ばす余地がある。
 次はバイオ、電子などの高度産業技術分野。鶴岡市のバイオサイエンスパークにはバイオ関連のベンチャー企業が6社ある。街づくりベンチャーの「ヤマガタデザイン」を加えると7社になる。
 今までサイエンスパークの取り組みは、バイオベンチャーが中心で、市民に分かりづらい面があった。ヤマガタデザインの屋内型児童遊戯施設「キッズドームソライ」、ホテル「スイデンテラス」ができて市民とつながった。これによって、夢のある街づくりが地域と一緒にできる期待が高まっている。
 三つ目は観光。「詣でる、つかる、いただきます」というキャッチコピーを観光戦略で掲げた。出羽三山などの神社仏閣に詣でて、鶴岡市内の四つの温泉に漬かる。お参りした後に料理をいただく「精進落とし」という昔からの文化が残っている。現代風にブランディングして観光振興につなげたい。
 「何もない何もない」と言う人もいるが、本当の宝は身近な所にある。それを磨いて大きく育てていくことが大事だと思う。

◆聴講者から◆

<若者が考える機会に>
 古里の鶴岡でまちおこしに携わりたいと思っており、若い世代がこれからすべきことを考える貴重な機会になった。(秋田市・大学生・10代女性)

<はい上がる力を実感>
 東北だからこそ東日本大震災の痛手からはい上がる力があると思っていたが、話を聞いてその理由を感じることができた。(酒田市・地方議員・60代女性)

<後継ぎ育成こそ重要>
 あらゆる業種で後継ぎ不足に陥っている現在、地域の特質を見つけて若者を育成していくことが重要だと思う。(仙台市泉区・自然災害科学者・70代男性)

<困難乗り越えて輝く>
 「何もない」と思っている地元や地域にこそ宝はあり、多くの困難を乗り越えて共創していくことで輝くのだろう。(山形市・会社役員・60代男性)

<地域資源の活用大切>
 地域の自然、風土や歴史を生かして、農林水産業を発展させながら東北の活性化を進めなければならないと痛感した。(鶴岡市・地方公務員・50代男性)

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2018年12月01日土曜日


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