<まちかどエッセー・物江麻衣子>木を植えた男

[ものえ・まいこさん]イラストレーター、デザイナー(屋号ico.)。墨汁やマニキュア、ドライバーなどを画材とし、東北放送製作「続・仙台弁かるた」や新聞・雑誌の挿絵、広告イラストを制作。現在、FMなとりで「イラストレーターico.のpiece of NATORI」放送中。1985年、宮城県名取市閖上生まれ。福島市在住。

 今でも思い出す光景がある。名取市沿岸の海岸林に遊歩道があった。中学生の頃、その道でランニングしていると、道の中央に大量の小石のようなものが散らされていて、驚き思わず声が出た。すると小石は素早く左右の草影にはけるではないか。カニの群れだった。
 この海岸林は3・11震災の津波で流出してしまったが、震災直後に結成された「名取市海岸林再生プロジェクト」により、再びこの地に松が植えられた。
 現在では多様な生物が確認されるようになり、昆虫や鳥類だけでなく、タヌキやキツネも棲(す)み着いている。私もこのあいだ、現地でカニたちに再会できた。
 このプロジェクトは、被災した地元の農業従事者の「必ずおらたづの海岸林を取り戻す!」という強い思いが根底にある。彼ら名取市海岸林再生の会が育苗を担い、長年海外で農業の技術指導をする公益財団法人オイスカが全体をコーディネートする。
 国、宮城県、名取市の協力と林業組合も現場を支え、そこに地元住民や全国からの現場ボランティア、企業支援、全国海外からの寄付者によって成り立っている。このビッグチームで、クロマツ約50万本を育苗し、約100ヘクタールという広大な「名取市民の森」を築いているのだ。
 彼らの真剣な植樹の様子を見ていると、絵本の「木を植えた男」を思い出す。人知れず荒野で植樹を続ける男が描かれ、年月を経て森や町が再生する話だ。ここにはまるで絵本から飛び出てきたような「木を植えた男(女)」たちがいる。
 私はこの絵本に魅了されて、一人が動くだけでも物事は変えられるのだと思えた。それからボランティアも植樹も(と言っても沿道のツツジ等だが)してきた過去があるので、巡り巡って自分の古里に植樹しているのは感慨深い。
 とはいえ、絵本とは違いここにはたくさんの仲間がいる。今年5月で植樹は完了したが、これで終わりではない。今後何十年もかけて育林作業をするので、現在もボランティア募集中だ。皆さんも「木を植えた男(女)」になりませんか。(イラストレーター)


2018年09月03日月曜日


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